シェリの旅路
出来立ての楽譜を確認し

愛用のバイオリンをケースから

取り出し、チューニング。


この子の名前はヴィラ。


生まれてはじめて

自分のお金で買った宝物。


10年連れ添っている相棒。


「さぁ、楽しい時間の始まりよ」


ヴィラを顎にはさみ

弓をあてる。



作りたての曲を弾くのは

なんて快感なのかしら?


音が鳴っている間は

あたしが世界の中心。


神。



自分の奏でるメロディーに

酔いしれる一時。



コンコンッ


あと2、3小節で

曲が終わろうというときに

邪魔な雑音。


「失礼します。お嬢様」


メイドが入ってくる。


あたしは演奏をやめ


「あれほど入ってくるなと

言っておいたでしょ!

まだ夕食の時間じゃないわよ!」


ティーカップを投げつける。


「も、申し訳ございません!

旦那様がお帰りになられたので

そのご報告を……」


メイドは涙目だ。


パパが帰ってきた?


あたしは嬉しくなり

次の瞬間

玄関へと駆け出していた。


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