とらべりんぐトリオ
サルビアは人混みに押しつぶされないよう、なるべく高い位置を飛んで市場を移動していた。

色とりどりのフルーツ、生きのいい魚、鮮血の滴る肉。

ありとあらゆるものが並び、人々は財布を片手に値段の交渉に声を張り上げる。

手のひらサイズのサルビアには、その輪に加わるだけで一苦労だ。

「やっぱりアケビに頼めば良かったかしら?」

しかしタイムは病み上がりだ。

万が一何かあったら、小さな自分では戦力にならない。戦えるアケビが側にいたほうがいい。

例えばリヴァイアが襲撃に来たら?

凶暴なドラゴンが現れたら?

自分は無力だ。

何もできずにただ羽をもがれて地に落ちるのみ。

魔法を使えば一矢報いるくらいはできるかもしれない。

けれどたかが一本の矢。それでどうにかなるわけでもない。

私にはなにもできない。

だからこそ無力なままで命を落とし、このファンタジアにやってきたのだけれど。

どこに行っても

どんな姿になっても

私は無力なままだ。

「おっとごめんよ。」

ぼんやり飛んでいたせいか、前から歩いてきた男の子にぶつかってしまった。

「こちらこそ、ごめんなさい。」

そしてしばらく飛んでから気がついた。

「…あら?」

持って来たはずのカスタネットが無い。

魔力を込めて叩けば炎を放つ魔法のカスタネットが。
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