☆いちご塾【2】☆
澪流講師:課題【初めてのMy携帯】

*永遠の無音*

『もしもし‥』
『はい、あっ お母さん?』
『わっ、ほんと‥2番押せばいいんだ。』

母の携帯デビューの時のやり取り‥。今から八年前の…だいぶセピア色にあせてしまった懐かしい想い出…。

高齢者向けの携帯電話。私と弟と、私の娘のアドレスをワンタッチダイヤルに登録してあげたので、簡単に操作できる様にしてある。

メールも 読み上げ機能がついているから、呆け防止で 娘とメールのやり取りをするはずだった。
しかし、それは果たされなかった…。

母は、胃癌の末期と診断され、入退院を繰り返すようになり、メールの操作を覚えるどころではなくなってしまった。

通院の待ち時間に、時折電話をかけてきた。

不安や病状の一進一退を訴えたり、時には家の近くのお気に入りのパン屋へ、気分の良い日にパンを買いに行った事など…闘病中の日常の一片を、携帯の小さな箱が私の元へ届けてくれた。


母の最初で最後のMy携帯。母が逝ってから、私が使っている。今は機種変更して、母の使用していた携帯は、役目を終えて 母の遺影の側に置かれている。

二度と触れる事の無い母の手の温もりと、懐かしい声を封印した永遠の無音携帯は、生前母のお気に入りだったpoohサンの携帯ケースの中で眠っている。
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