Liberty〜天使の微笑み【完】
―朔夜side―
久々に実家へ帰ると、妙に母親が上機嫌なのに気がついた。聞くと、最近アニキが彼女を連れて来るようになったらしい。
「へぇ~。家に連れて来るなんて珍しいじゃん」
アニキが彼女を家に連れて来る事態、初めてだったような気がする。
少なくとも、オレが知る限りでは初めてだ。
「まだそんなに話はしてないけど、礼儀正しい子よ。本当、純哉にはもったいないくらいで、これでいいの? とか。弟の方がカッコいいわよ、なんて言っちゃった」
「ちょっ、変なこと言うなよ!」
もしそれで惚れられでもしたら、アニキに悪いし。
……まー、オレが惚れることはないけどさ。
「オレも会ってみたいなぁ~。アニキ、会わせてくれるといいけど」
「難しいんじゃないかしら? あの子、そういうことはなかなか言わないもの」
確かに、アニキには少し秘密主義なところがある。
けれど、それは彼女のことにほとんど限定してると言っていいだろう。ある一定の付き合いがないと、家族には紹介してくれない。現に、前の彼女は半年ぐらいしかもたなかったから、オレは話にしか聞いてないし。
「あ、でも……そろそろ一年になるから、さすがに紹介してくれるかもしれないわよ」
「一年も経つの!?」
それは驚きだ。
なんせ、アニキがこれまで付き合った中で、二番目に長い記録だったから。
「その子って、どんな子なの?」
「可愛らしい子よ。身長は……朔夜より少し低くて、目がくりっとしてるわ」
かあさんがここまで言うんだから、ホントにカワイイんだろうなぁ。
それから何度か実家に帰ることがあったが、アニキが彼女を連れて来る日にはうまく合わなくて。
いつ会わせてくれるとも分からないから、そんなことも忘れてしまっていた時。
「――えっ、会わせてくれるの?」
昼休み、オレは唐突にその知らせを聞いた。
『お前、今日は用事なかっただろう?』
「ないけど……急だな、と思って。彼女の方はいいの?」
『アイツにはこれから聞くとこ。けど、いつもこっちから言えばOKだから』
いや……そりゃちょっと相手に悪いんじゃあ。
『というわけで、店はいつもの居酒屋な』
「あ、あぁ。分かったよ。んじゃ、またあとで~」
携帯を切ると、食堂へと急ぎながら、今夜のことを考えていた。
明日も早いし、飲むのはなしだな。
久々に飲みたいとこだけど……アニキは帰りの足がない。そうなったら、オレが送るしかないもんな。
「ホント、どんな子なんだろう」
市ノ瀬も弟に会うみたいだし、どうせなら知り合いの方が気楽でいいけど。
「……やっぱ、イヤだよなぁ」
そんなことを考えながら、放課後を迎えた。
足早に自宅に帰ると、車を走らせ店へと向う。
場所はわりとキレイな店で、酒の種類が豊富なのが売り。
今度みんなを誘って来ようかなと思っている場所だったりする。
「――よ、朔夜!」
店に行くと、そこにはアニキ以外にも、もう一人座っている人物がいた。
「幸希さんも来てたんですね。ってかアニキ、相手にはちゃんと言ってるの?」
「言ってないけど? 別に、来たら分かることだろう」
うわぁ……出たよ。アニキの自分勝手なとこ。
ふつうにしていれば分からないが、オレや幸希さんぐらいの親友になると、アニキがこういう性格なのは知っている。そのせいか、彼女と長続きしない原因がこれだったりする。
……あれ?
じゃあ、市ノ瀬の彼氏って。
もしかしたらという考えが、頭の中を駆け巡る。
あの時は言わなかったけど……自分のことを他人に話さない部分なんか、アニキに当てはまるし。
「……ちょっとトイレ」
席を立ち、軽く外の空気を吸う。
あぁ~……マジで勘弁してくれよな。
ホントに市ノ瀬がアニキの彼女なら――そんなこと、考えたくもない。
「せっかく分かったってのに……早くも失恋か?」
ははっと、失笑が口からもれる。
まぁ、友達になった時点で彼氏がいたんだから、失恋もなにもないだろうけど。
実際にこの目で見るまでは、答えを出すのは早いだろう。
そんなことを考えながら席へと戻ると、途中、目の前に人がいることに気付かず、相手とぶつかってしまった。