Liberty〜天使の微笑み【完】

第3話 増える痛み


 電話を取らなかったのが気にくわないのか、あの日から、カレが口を利いてくれない。
 メールや電話はつながるものの、返事は今のところ一切なくて。



 「――はぁ」



 絵を描く手も止まってしまうほど、私の頭には、どうしたら許してもらえるのだろうという考えが溢れていた。

 「く~れ~は! ほら、食堂行くよ?」

 背後から話しかけられ驚いたものの、美緒の言葉に頷く。
 そっか、もうお昼なんだ。
 時間が経つのがあっという間で、講義の内容も頭に入らないほどだった。

 「それで海(かい)ったら……って。紅葉、聞いてる?」

 「えっ……?」

 「今の話、聞いてないでしょ? っていうか、今日は特に気分ダウンいてない?」

 やばっ……気付かれるなんて、相当落ち込んでるんだなぁ。
 他のことはバレても、このことは相談するようなことじゃないし。何より、自分でなんとかするものだと思うから。

 「ほら……私、あの日が近いと、気分がこうなるじゃない?」

 嘘とはいえ、さすがに他の生徒もいる手前、生理とは言えない。だからそれとなく、濁して伝えた。

 「……あぁ! な~んだ、それなら早く言ってくれればいいのに。心配するでしょ?」

 「うん、ごめんね。そんな言うことでもないと思って」

 「だからって、無理しちゃダメよ? 最近、いっつもアトリエにこもってるじゃない」

 「無理はしてないよ。期限も近いから、ちょっと追い込みかけてるだけ」

 本当は違う。
 絵なんてまだ下書きだけだし、カレのことが気になってしょうがないから、それを忘れるために没頭しているようなものだった。

 「そっか、もう二週間しかないもんね。――ってか、まだ色のせてないじゃん! 間に合うの?」

 「はははっ……た、たぶん」

 「たぶんって……もう、根つめ過ぎ。――よし、今週は遊ぶわよ!」

 そんな発言に、えっ? なんて疑問を感じていると、美緒は楽しそうに言葉を続ける。

 「海とさくちゃん誘って、美術展でも行こう。刺激になるかもしれないでしょ?」

 ね! と言って、美緒はやさしい笑顔を向けた。
 学校以外で行くことなんて……どれぐらいぶりだろう。
 そういえば、付き合い始めの時に一回。あれが、最初で最後だったような。
 カレもそういうのには興味があり、私が描いた絵を気に入ってくれたことが、付き合うきっかけだった。――それなのに。
 絵についても……話、することないなぁ。
 ふと、そんなことを思い出してしまった。

 「で、土曜は都合いい?」

 「えっ……あ、カレに、聞いてみないと」

 いくら返事がこないからと言って、何も言わないまま行くのは気が引けちゃうし。
 そう言うと、私は携帯を手にし、カレへとメールを送った。

 「こっちはよし……っと。海は大丈夫だって。あとはさくちゃんねぇ~」

 美緒は美緒で、他の二人に連絡を取っていた。
 せっかくだし、すごく行きたいけど……。
 それは、カレの返事次第だった。



 ブー、ブー、ブー。



 携帯が震える。すぐさま携帯を開くと、そこには【誰と行くんだ?】という短いメールが。今まで来なかっただけあって、それだけ短くても、うれしくてしょうがない。
 友達の美緒と、その彼氏。そして橘くんの四人だと伝えると、これもすぐに返事が来た。



 「――っ!」



 次のメールを見た途端、私は表情が強張った。
 行きたければ行ったらいいとか、その程度の内容を考えていたのに。来たメールは、予想より悪いものだった。
 内容は、【オレよりそっちを選ぶんだな】という言葉が書かれていて、私はまた、カレを怒らせてしまったのかと心配した。
 別に、友達を優先するわけじゃあ……。
 気を付けろよ、なんて言葉も書いてあるものの、そんな言葉を見てしまえば、後にどんな言葉が書いていようと、気にせずにはいられない。

 「……ごめん、美緒」

 行けないことを伝えると、ダメだったの? と、心配そうに聞いてくる。

 「元々、会うようにしてたから……本当、ごめんね」

 「別にいいけど。――じゃあさ、日曜ならいいでしょ?」

 「えっ……た、たぶん」

 「な~に、また彼氏に聞くの? そんな合わせてたら、身がもたなくなるわよ? 体は大事に、無理は禁物!」

 別に……無理なんてしてないけど。
 一応カレに聞いてみると、好きにしらいいと返事がきた。
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