Liberty〜天使の微笑み【完】

 「どう? 返事きた?」

 「うん……日曜なら、大丈夫。何時からにしようか?」

 それから日曜のことをだいたい決め、午後の授業へと向った。
 残りの授業は、大会に出る者はそれを仕上げるようにと、私はアトリエで絵を描いていた。美緒はふつうに授業を受けるので、一人絵に向うことになる。



 「これでいい……かな」



 出展作品にめどがつき、大きく息をはく。
 あとは色を付ければ問題ないけど。



 「――何も、感じない」



 自分で見ても、なんて空っぽなんだろうと思う。
 どこか虚しいような、覇気がないような……。
 不思議な感覚を与える、と言えば聞こえはいいだろうけど、納得の出来る絵ではなくて。



 本当に描きたいのは……こんなのじゃない。



 今年に入ってからスランプになりはじめて、未だそこから抜け出せないでいる。
 だから余計、気晴らしに遊びたい気にもなるけど。
 ……やっぱり、純さんを放ってはおけない。
 今は絵のことよりも、カレとの関係を元通りにする方が先決。そうしないと、余計にもやもやとした感情が湧いてしまいそうで。
 明日……仲直り出来るといいなぁ。
 そんなことを考えながら、キャンバスに色をのせていった。

 ◇◆◇◆◇

 土曜の午後、私は自宅へ帰るなり、晩ご飯を作っていた。
 家は祖父母の二人と一緒に暮らしていて、食事は私の仕事。出かける時は、前もって作ってから行くようにしている。
 手早く支度を済ませると、車へと乗り込み、カレの家へと目指した。
 着いたのは夕方で、カレはまだ帰っていない。
 車の中で待っていると、来たことに気が付いたおばさんが、家で待てばいいと言って、中へと通してくれた。

 「すみません、いない間にあげてもらって……」

 「いいのいいの。一度ゆっくり、紅葉ちゃんと話してみたかったし」

 お茶を飲みながら、私たちは色々と話をした。
 私が橘くんと同じ大学だと知ると、学校ではどうしてるのかと、次第にそちらをメインに話が弾んでいく。

 「へぇ~。あの子、元気にやってるのね」

 「こっちには、あまり帰らないんですか?」

 「最近はわりと帰ってくるようになったの。それこそ一昨日とか――?」

 窓の方へ行き、おばさんはカーテンを開ける。
 カレが帰って来たのかと思い私も立ち上がると、ちょっと待っててねと言って、おばさんは玄関の方へと行ってしまった。
 お客さんでも来たのかなぁ?
 再び正座をして待っていると、次第に、誰かの声が聞こえ始めて。
 さっと襖が開いた音がし振り向くと、そこにいたのは。



 「――疲れたぁ~……っ!?」



 完全にオフになった姿の、橘くんだった。
 バイト終わりで汗をかいているからか、制服の前ボタンを全部外していて。胸元が、ガッツリと見えてしまっていた。

 「こ、こんばんは……」

 「あ、あぁ……こんばんは」

 お互い予想してなかっただけに、なんともぎこちない挨拶を交わす。
 慌てて服を着替えに部屋を出る橘くんと入れ替わるように、楽しげに部屋に入るおばさん。手にはお盆を持っていて、その上に乗せられた料理を、当たり前のようにテーブルに食事を並べ始める。

 「朔夜も来たし、紅葉ちゃんもご飯食べてね? あの子、今日は帰るの遅いみたいだし」

 言われて、私は慌てて携帯を確認した。着信があるかと心配したが、メールが1件だけ入っており、見ると、それはやはりカレからのものだった。
 短いメールかと思われたが、久々に長い内容が書かれていた。
 遅いのは……残業じゃないんだ。
 会社の仲間と飲み会があるらしく、今日は会えない。だからまた今度会おうなと、そんな言葉が書かれていた。
 まぁ、付き合いもあるから仕方ないよね。
< 13 / 86 >

この作品をシェア

pagetop