Liberty〜天使の微笑み【完】

 「ごめんね……急に送ってもらうことになって」

 「いや、そこは気にしないでいいから。――んじゃ、とりあえず帰ろうか?」

 「うん。今日もお願いします」

 車を走らせること数分――先程からかわれたのが尾を引いているせいか、なんだかちょっと、恥ずかしい雰囲気が漂っていて。

 「…………」

 「…………」

 嫌な空気ではないものの、これはこれで困ってしまう。

 「…………」

 「…………」

 えっと……何か、会話を。

 「…………」

 「あ、あのね――?」



 ブー、ブー、ブー。



 声を出したのと同時に、カバンに入れていた携帯が震える。急いで開くと、カレからの電話がかかっていた。

 「ごめん、電話使うね」

 一言断ってから、携帯のボタンを押した。

 『今何してる?』

 唐突な質問ながら、私は橘くんに送ってもらっているところだと話す。

 『ふ~ん……ま、ちょうどいいや。朔夜に代わって』

 「うん、分かった。――橘くん、純さんから」

 ん、と頷いてから、橘くんは携帯を受け取った。
 どんな話をしているのかと見ていると、困った声が耳に入る。

 「今から?! 別にいいけど……明日学校なんだから、あんま遅くは勘弁してくれよ。――あぁ。はいはい、じゃあまた」

 話が終わったらしく、電話を切ると、橘くんは申し訳なさそうに言葉を発した。

 「今からさぁ……アニキが家に来てくれって」

 「えっ、今から……なの?」

 「この間会えなかったからって言ってるけど……イヤなら無理しなくていいぞ?」

 「ううん、いやじゃないから。――でも、帰りはどうしよう」

 今日は足がないし、明日は学校だから早めに帰りたいけど。

 「帰りはオレが送るから、そこは気にしなくていいから」

 「そ、そんな! いくらなんでも、そんなこと……」

 「別にいいって。ってか、アニキのワガママに付き合ってもらって、こっちが悪いなぁって思うぐらいだし。だから、気にすることないから」

 やわらかい笑みを見せながら、橘くんは言う。
 本当……橘くんって、すごくやさしいよね。
 でもきっと、それは私が、お兄さんの彼女だからなんだろうけど。
 帰りも送ってもらうことに感謝をして、私たちは実家へと向った。



 「――早かったな」



 部屋に入るなり、カレは私を引き寄せ、そのままベッドへと押し倒す。いつもと違う行動に驚いていると、意外な言葉が耳に入った。

 「この間は悪かったな、会えなくて」

 「あ……別に、仕方のないことだし」

 「ってか、今日は溜まってるんだよ。――いいだろう?」

 ニヤリと笑い、カレは左手で私の両手を押さえ、右手を胸の上に置く。
 少し痛いくらいに揉まれ、思わず声を出してしまう。

 「声、出さない方がいいぞ? もしかしたら……聞こえるかもだしな」

 「は、恥ずかしいっ?!」

 服をたくし上げられ、肌が露になる。
 胸元に顔を埋め、カレは楽しげに行為に及ぶ。

 「っい! ダ、ダメ、だからっ……」

 ブラをずらされ、カレの舌が、胸を這っていって。

 「下は嫌がってねぇーけど? ほら、力抜け」

 今日呼んだのって……これが、目的だったの?



 そういう気分だったから、会おうって言ったの?



 体が痛いのか。
 それとも心が痛むのか。
 声を出さぬよう必死になっていて、何が痛いのか、分からなかった。



 純さんは……何のために、私といるの?



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