Liberty〜天使の微笑み【完】

第4話 蘇る痛み


 カレから半ば無理やり抱かれてから数日。
 生理ということもあってか、私の気分は余計に落ち込んでいた。
 それに伴い、授業で描くデッサンにも身が入らなくて……。
 大会用のは仕上げたものの、スッキリとしない。

 「どんどん……深みにはまってるかも」

 スランプにどっぷりはまってしまい、どうしたらいいのかとため息がもれる。

 「く~れ~は!」

 「っ!?」

 突然背後から抱きつかれ、ビクッと体が震えた。

 「ねぇ、休憩がてらにモデルになってくれない?」

 「いいけど、別に私がやらなくても」

 「紅葉が描きたいの!――ほら、そこの窓際に座って楽にして」

 ね? と言って、美緒は笑顔を向ける。
 心配……かけちゃったんだ。
 さっきから、私が描いていないのに気付いたらしい。
 窓の外を眺めるように視線を向け、片手を頬へと添える。

 「ついでに、髪も結んじゃお」

 そう言って、美緒は慣れた手つきで髪を結んでいく。
 私の髪は腰まであるから、美緒曰く、やりがいがあって面白いらしい。美緒自身は肩ほどまでしかなく、私と同じぐらいの長さに伸ばすのを目標にしている。

 「左に流して……ちょっと緩めの三つ編みにするね。――はい、完成~」

 「なんだか……寝ちゃいそう」

 「眠たかったらいいよ。あたりは描いてるし、いっつも紅葉の顔は見てるからね!」

 もう、美緒ったら恥ずかしいこと言って。
 笑みをこぼしながら、再び外へと視線を移す。
 周りの木々が色付き始め、校門の近くに咲いている銀杏の木も、黄色く色付きだしていて。秋なんだなぁと、そんなことを実感していた。
 そういえば……そろそろ、学祭の時期だなぁ。
 去年は模擬店をしたから、今年も何かお店をやるような話を聞いていた。

 「美緒は、模擬店何がしたい?」

 「ん~? そうねぇ……デザート系がいいかな。クレープとかさ」

 「それ、去年も案が出てたよね」

 雑談をしながら、楽しい時間を過ごす。
 あらかた終わったのか、デッサンを見せてもらう。
 相変わらず、構図がしっかりしてるなぁ。
 私も構図らしいのは描くものの、薄っすらとしたあたりを描く程度で、途中の段階では、何を描いているのかサッパリだったりする。

 「ここまで描けば、あとはやり込むだけね。――じゃあ、ちょっと早いけど行こうか」

 キャンバスを片付け、食堂に行こうと促す。それに頷き、私も道具を片付け、一緒に食堂へと向った。



 この時……嫌な足音が近付いていることなど、考えもしないまま。



 「――なん、で」



 食堂へと続く道の先。校門の近くに、見知った人物を見た。

 「紅葉……? どうかした?」

 なんで、あの人が……。
 体が強張り、動きがぎこちなくなるのが分かる。
 ダメ…考えちゃ、ダメ、なんだから――。
 すると、その人物は私に気付いたらしく、こちらに向って歩いてきて。

 「あの人……こっちに向かってるね」

 気のせいではない。あの人は、確実に私を目指している。

 「み、お……早く、行こう」

 震えだした声をなんとか振り絞り、言葉を発する。
 その間にも、その人物はこちらに歩いてきて――近くまで来ると、その足を止め、私たちに声をかけた。



 「クレハ、久しぶりねぇ~」



 目の前に現れたのは、肩まで伸びた濃い茶髪の女性。小柄な身長で、顔立ちがハッキリとしている人。

 「…………」

 声が、出ない。
 まるで、言葉を知らないかのように。
 私の口は、堅く閉ざされていた。

 「もぉ~ママが会いに来たのに、アイサツもなし?」

 笑顔で近付き、その人は私の手を握る。



 やめ、て……さわら、ないで。



 久しぶりに会えたのが余程うれしいらしく、両手を握って、その人は私を見る。
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