Liberty〜天使の微笑み【完】

第5話 拒絶する心


 断りを入れてから、カレの態度が少し変わった。
 いや、変わったって言うのはおかしいかもしれないけど……今までのような、嫌な雰囲気が和らいだ気がする。



 ――そう、感じ始めていたのに。



 「これ、誰かに見せてみるか?」

 私は今……この状況が理解出来ないでいた。

 「よく撮れてるよな~。気に入られたら、そいつとやってみる?」

 カレは携帯を見せ、そんな言葉を発する。
 そこに映されているのは、私の写真。でもふつうのものではなく……それは、カレと行為に及んでいる時のもの。
 嫌だったけど、その時のノリというか、気分というのか。
 顔や秘部を隠し、誰にも見せないからということで撮るのを許可したもので。それが今、どうしてこんなふうに言われるのか、頭が追いつかなかった。

 「やる、って……」

 「んなの、セックスに決まってるだろう?」

 面白そうだよな~と、カレは怪しく笑う。
 そん、なの……。

 「いや、だよ。純さん以外となんて……したくない」

 恋人以外の人となんて、考えられない。
 従った方がいいんじゃないかとか、そんな考えが浮かんだものの。



 これは……絶対に、ダメ。



 従ったら、戻れなくなる。
 危険だというのを、本能で感じた。

 「ったく、ただの冗談だってのに。なんでもまともに受け止めるなよな? 少しは流すことを覚えろよ」

 面倒だなと、カレはため息混じりに言葉をはいた。
 冗談って……そんなこと、簡単に流せないよ。

 「その写真、誰かに見せたり……してない、よね?」

 不安になり訊ねるとカレは否定も肯定もせず、さーね? とはぐらかすだけ。
 どれだけ、不安になればいいんだろう。
 それを口にすれば、カレはいつも同じ言葉を言うだけ。何度その言葉を言われても、私はそれを理解したくないという気持ちが、日に日に増していった。



 『少し不安にさせるぐらいが、相手が逃げなくていいんだよ』



 多少の刺激というか、ちょっと気にさせるというようなことは必要かもしれないけど。
 相手が嫌だと言っても、尚もそれをやる意味って……あるの、かな?

 「俺のこと……嫌いなの?」

 おでこにキスをし、いつになく甘い声で囁いて。
 そんなふうに言われたら、肯定しか出来ない。

 「……好き、だよ」

 嘘ではない。
 それは、本心から思っていること。



 なのに――チクリと、胸に痛みを感じた。



 その答えに満足したのか、痛いぐらいに抱きしめられる。

 「安心した。朔夜の方を好きになったら、どうしようかと思った」

 私が、橘くんを好きになる?
 やさしいとは思うけど、純さんっていう彼氏がいるのに、他の人になんて目移りするなんてことはないのに。

 「橘くんは……友達、だよ? いくら一緒にいるからって、そんなこと」

 「――その言葉、本当か?」

 少し低い声で言われ驚いたが、私はその言葉に頷いて答えた。

 「ならいいや。――今週の日曜、空けておけよ?」

 「う、うん、分かった。どこか、出かけるの?」

 「あぁ。幸希が四人で会おうって。アイツも彼女連れて来るらしい」

 先輩、彼女がいたんだ。
 どんな人なのかなぁと考えていると、カレは片手で顎をくいっと持ち上げ、視線を自分の方へと向ける。その目は少し怖くて……反射的に、後ろへと逃げようとしてしまった。

 「アイツの彼女、俺らより2つ年上。――分かってるよな?」

 それはきっと、話し方のことだろう。
 聞かれないか限り、こちらから余計なことを言わないのは大前提。だから、言われるとしたら、先輩の時も言われたこれしかないと思った。

 「……敬語、だよね?」

 「お、分かってんじゃん。少しは学習したんだな」

 ふっと笑みを見せたかと思うと、カレは慣れた様子で私を抱え、ベッドへと場所を移動する。
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