Liberty〜天使の微笑み【完】
「あんまり騒いだら、周りに迷惑だよ。ほどほどにしようね」
「も~たまにははっちゃけないと。あ、お酒は用意してあるから、ご飯はよろしく~」
「そうくると思って、おかずだけだけど持って来たよ」
「さっすが~! ちなみに、中身は何?」
カバンからタッパを出すと、美緒はチラチラと、それに視線を移す。
「ほら、ちゃんと前見なきゃ。言っとくけど、豪華じゃないからね?――から揚げと、ブリの煮付けの二品」
「お、から揚げいいじゃん。お酒のおつまみにはかかせないよねぇ~」
家へ着くと、美緒はさっそくお酒を用意し、テーブルに並べる。
カシスオレンジにソルティードッグに始まり、梅酒やカルアミルクまで、意外にもたくさんの種類を準備していた。
「んじゃさっそく――乾杯~!」
「カンパ~イ!」
グラスを軽く当て、一口飲むと、おかずをつまみながら、話に花を咲かせる。
酔ってくると、海さんとのラブラブ生活のノロケを聞かされたり、バイト先の店長がセクハラしてくるだの、話は色々と広がってき――あっと言う間に、三時間も経っていた。
その頃には、私も美緒もいい具合に酔っていて。
「――ねぇ~紅葉?」
とろんとした目で問いかける美緒に、ん? と、グラスを置いて視線を向ける。
「最近さぁ~……彼氏と、上手くいってる?」
そんな質問も、いつもなら頷いて答えるのに。
「ははっ。ダ~メ!――純さん、よく分からないんだぁ」
お酒のせいなのか、それとも早く言いたかったのか。
まるで、グラスから水が溢れるように。
ゆったりとした口調で、私は話を始めていた。
「美緒は~、エッチの時の写真とか、あるぅ?」
「あるけどぉ? 一緒に写ってるのがね」
「私のはねぇ……ひとり、なんだよぉ? しかも、それを見せるだの、流すだの――おかしいよねぇ~? あははっ」
グラスに口を付け、半分ほど一気に飲み干す。
もう、こうなったらやけになってるようなもの。
心地よい感覚で、今ならスラスラと、胸の内を上手く言えるような気がする。
「しかも、ね? 他の人と、やるか? とか、言われて……」
「ふ~ん。――紅葉は、どうしたいの?」
しっかりとした口調で聞く美緒には、酔っている様子はなく。私の答えを、真剣な眼差しで待っていた。
美緒、さめたの、かな?
ん~? と疑問に感じながらも、私は聞かれたことを答えようと、その思いを口にする。
「もう……いや、だなぁ」
ぽつりと小さくこぼれた言葉は、とても弱々しく。
それを口にした途端、自然と、頬に涙が伝っていた。
「でも、さぁ……できない、の」
「うん、だろうね」
「写真が、こわく、て……」
私が言うことに、美緒はきちんと反応し、否定することなく聞いてくれる。
「エッチも、ね……いやなのに、やめて、くれない。――痛いのに、するの」
「……あんたって子は」
バカねぇと小さく呟き、私をやさしく抱きしめた。
「ホント、見てらんないわよ。お酒飲んでやっと言うなんて」
あ、れ――?
なんで、酔ってないの?
ぽんぽんと頭を撫でながら、美緒はやわらかい声で言う。
「ふふっ、あれぐらいで酔う私じゃないわよ? ホント……ほっとけない。内に溜め込んで、周りに平気だって笑って。――そんなんじゃ、いつか壊れるのよ?」
「壊れる、って?」
「ん~私の場合は……自殺、かな?」
ま、未遂だけどねと言って、軽く息をはく。
「消えたくて、居場所なんてなくて……全部、消したくて堪らなかった」
居場所が……ない。
そっか。美緒も、同じなんだっけ。
今の美緒からじゃあ、全然そんなふうには見えないけど。きっと、すごく苦しかったんだろうなと感じた。
「ごめん、ね……美緒の方が、辛い、のに」
「こら、そーいうのはダメよ?」
首を傾げると、美緒は真っ直ぐに私の目を見つめ、言葉を発した。
「確かに、私も虐待されたわよ? でもね、自分よりまだ辛い思いをしてる人がいるんだ、これぐらい耐えなきゃとか思ってるなら……そんな考えはダメよ?」
でも……私より嫌な思いしてる人なんて、たくさんいるのに。
甘えてるような気がして、どう返していいか戸惑っていると、美緒は話を続ける。