Liberty〜天使の微笑み【完】

 「その人にとって、何が辛いかなんてそれぞれでしょう? そりゃあたまに甘えてる人はいるけど……紅葉は、そんなことないんだよ」

 「そん、な……言われるような、こと」

 自分では甘いと思っていたのに、そんな言葉をかけてくれるとは思ってもなくて。
 ゆっくりと流れていた涙が、徐々にその流れを速くし。

 「…、……っみ、お」

 溢れ出る涙は、もう止められるほどのものではなくなっていた。

 「泣くのも、我慢しないの。ま、誰かさんの受け売りだけどね。――紅葉は、一回思いっきり泣きなさい」

 ふわり、再び美緒は抱きしめる。
 とても温かくて、やさしくて。



 「っ……ひ、ぐっ――う…うわぁー……!」



 友達の前で、初めて、声を上げて泣いた。
 服にしがみ付いて、泣いて、泣いて……。
 疲れるまで泣いたことなんて、本当に、これが初めてだった。

 「あの、時の……絵を、み、て……くれた、はずな、の、に」

 「ちゃんと聞くから、いっぺんに話さないの」

 ゆっくりと深呼吸をし、息を整える。何度もそれをやっていると、次第に呼吸は落ち着き始め……ようやく、まともに話せるようになってきた。
 美緒にも、話さなきゃ。
 橘くんに話したように、私はカレを好きになった理由や、今思っていることを話した。

 「そっか……好きなこと話せないって、イヤなことよね」

 「うん……だから、ね。最近、よく考えるの。――本当に、あの絵を見てくれた人なのかなって」

 その時に描いたのは、月の絵。
 月から滴り落ちる水と、舞い落ちる羽根と丸い模様。
 月と丸いものを入れて描くのが、私の絵の特徴。
 色合いは青を基調とし、奥の方には紫や濃い色を使い、濃淡をつけた絵。
 気に入ってる作品だけど、そこには少し、悲しみのようなものも描いていて――けれど、ほとんどの人は、それに気付くことはない。
 それを気付いてくれたから、話してみようと思って……少しずつ、心を開いていったのに。

 「一回、さ……確かめてみたらいいんじゃない?」

 「確かめるって?」

 「まぁ直接言ってもダメだろうから、遠まわしに――ね?」

 小さく耳打ちし、その内容に自分が出来るか心配したものの、それは聞かないといけないと思っていたことだから、頷いて見せた。

 「……やってみる」

 「その方がいいと思うよ。今後のためにもね」

 その後も、美緒は色々と話を聞いてくれて。
 疲れてしまうまで、その日は語り明かした。

 ◇◆◇◆◇

 美緒に打ち明けてから、気持ちが少し、軽くなった気がする。
 おかげで、先輩たちと会う今日も、心配をかけずにいられそう。
 待ち合わせ場所は、デパート内にあるフードコート。カレと適当な場所で座って待っていると、時間ちょうどに、先輩たちは姿を現した。

 「初めまして。鈴木愛美(すずきえみ)と言います」

 先輩の横には、肩まで伸びたストレートの黒髪の女性が立っていて、私たちに軽く頭を下げる。
 肩に茶色のバッグをかけ、桜色のワンピースがやさしい印象を与えるものの、声がとても凛としていて、すごくキレイな人だなと、思わず見惚れてしまっていた。

 「聞いてたとおり、紅葉ちゃんって可愛いわね」

 目の前に腰掛けると、愛美さんはそんなことを口にした。
 か、かわいいって……。
 戸惑いながらも、私はお礼を述べた。

 「ふふっ、赤くなっちゃて。本当に可愛い」

 「そ、そんなことないですから……」

 初めはぎこちなかったけど、そこは女同士。すぐに話題が見つかり、お互いの彼氏についてだったり、ファッションについての話に盛り上がっていた。

 「ねぇ、今度はふたりでお買い物しない?」

 「はい、私も是非行ってみたいです」

 お互いにSNSを交換していると、先輩は視線を愛美さんへと向ける。

 「あんまり長い時間、連れ回すなよ?」

 「ふふっ。幸希、女の子の買い物は、長いものなのよ。ねぇ~紅葉ちゃん」

 二人を見ていると、なんだか、ほんわかしている雰囲気がして。
 これが大人のカップルってものなんじゃないかと、そんな気がした。
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