Liberty〜天使の微笑み【完】
◇◆◇◆◇
午後五時を少し過ぎた頃――。
「おっ待たせ~! じゃあ行こっか」
車で迎えに来てくれた美緒の運転で、私は集合する店へと連れて行ってもらった。
そこは、裏路地にあるような、小さな個人店。
パッと見で感じる印象は、とても落ち着いた雰囲気を漂わせ。
入り口をくぐると、オシャレな音が耳に入る。どんな曲なのかは分からないが、穏やかなジャズっぽい、どこかで耳にしたことのあるような曲が流れていた。
「へぇ~。なんだか、すごくいい雰囲気のお店だね」
「でしょ? 最近お気に入りのお店なの。――お、みんな揃ってるじゃん」
個室へと案内されると、そこには既に、私たち以外の人たちが座っていた。
男女に分かれて座り、それぞれが好きな飲み物を注文する。
簡単に自己紹介を済ませ、飲み物がくると、今回の仕切り役である美緒が声を上げた。
「それじゃあ乾杯しましょうか。はいはい、みんなグラス持って~」
全員が手にしたのを確認すると、美緒は元気よく声を発する。
「では――乾杯~!!」
美緒の声に続き、みんなも声を揃えカンパイの言葉を口にする。
初めは少しぎこちなさがあるものの、そんな緊張はすぐにとけ。男女共に席替えをしたりして、盛り上がりをみせていた。
「そこ、座ってもいいかな?」
グラスを持った一人の男性が、私に話しかける。
それに頷くと、ありがとねと言って、私の横に腰を下ろした。
「市ノ瀬さん、だよね? 俺のこと覚えてる?」
言われて、私は首を傾げた。
覚えてるって……どこかで、会ったことあったかなぁ?
短髪の黒髪に、少し目は細いものの、きりりとした印象を受ける男性。
記憶を巡らせるも、思い当たる節がない。
「あ、やっぱ覚えてないか。――高校、緑ヶ丘だったでしょ? 一年と三年で一緒に作品仕上げた時に会ってるんだけど……」
「作品……?」
言われて、その時のことを思い出してみた。
確かに、男の先輩とペアーを組んで作品を仕上げたことがある。けれどその先輩は、黒縁メガネをして、どちらかと言えば地味な印象の人で……目の前にいる人がその時の人だと言われても、すぐには結びつかなかった。
「……赤峰先輩、ですか?」
なんとか思い出し、名前を口にする。
すると男性は、楽しげな笑みを向けて話し出す。
「お、ちゃんと覚えててくれたんだ? あんましゃべらなかったから、忘れられてると思ったけど」
「名前は覚えてましたよ。でも……その、全然雰囲気が違うから」
「はははっ。まーあの時は根暗入ってたからね。これも何かの縁だし、よろしく」
そう言って、赤峰先輩は手にしているグラスを私のグラスに軽く当てた。
本当……変われば変わるものだなぁって実感する。
女子の変貌も驚くけど、赤峰先輩の変わりようも、それに似た驚きだったから。
その後、注文した料理を食べ終えると、次なる目的地であるボーリング場へと向った。
初めは男女別れてゲームを行ない、次は男女交じって2ゲーム行なうことに。
すると、1ゲームが終わると美緒がある提案をしてきた。
「どうせなら……罰ゲームありにしない? 負けたチームはここを奢る、とか!」
その提案に、みんなはノリノリで返事をする。私も、そんな中の一人だった。
これぐらいあった方が楽しいよね。
投げる順番を決めていると、ふと携帯が光っていることに気が付く。開いて見ると、そこにはカレからの着信が数件入っていた。
「すみません、ちょっと電話を」
チームの人に断り、私は足早に外へと出て行った。