Liberty〜天使の微笑み【完】
「悪い。ちょっと電話してくる」
そう言うと、先輩は携帯を耳にあてながら、私たちから離れて行った。
「またお仕事かしら。じゃあ、ちょっと私も」
失礼しますねと言って、愛美さんはバッグを椅子に置いたまま、席を後にした。
ぎこないままだったらと心配したけど……。
愛美さんとは話も合うし、いい友達になれそうでよかった。
ほっと笑みをこぼしていると、隣に座っていたカレが、私の手首を掴む。
「お前さぁ……気ぃ抜き過ぎ」
呆れたように言い、握った手に力を入れる。
「敬語はまーいいとしても。二人でなんて出かけたら、迷惑かけるから行くな」
行くなって……だって、せっかく誘ってくれてるのに。
「誘われてるのに、それはちょっと」
答えが気に食わないのか、チッと舌打ちをすると、はぁ~とため息をついてから言葉を発する。
「んなもん、いくらでも理由つけれるだろう」
「で、でも……一緒に、遊んでみたい、し」
「だから、迷惑になるからやめろって言ってんだよ。――俺の言うこと、聞けないわけ?」
「っ……!」
低い声と共に、手首には強い痛みが走り。
私は思わず、顔を歪めていた。
「……で、返事は?」
「…………」
「返事!」
「っ……! わかっ、た」
返事を聞くと、カレはようやく手を離した。
やさし、かったのに……。
出会った時は、本当にやさしくて。
楽しい時間だったはずが、今では少しずつ、違うものへと変化して。
あの時の人とは……違う、の?
そんな不信が、心に渦巻いている。
カレの今の行動と、出会った頃の行動とが一致しないし……何より、一番好きな絵について、話が出来なくなってしまったから。
それから二人が戻って来て、食事をしながら話をしていると。
「佐々木さんと紅葉ちゃんって、仲がいいわね」
微笑みながら、愛美さんは言った。
私も笑って見せると、カレは意外な行動に出る。
「そりゃそうですよ。――俺、こいつに惚れてますから」
肩をそっと引き寄せ、髪の毛に軽くキスをする。
いつもされないようなことをされ、どうしたものかと戸惑っていると、カレはふっと笑みを見せた。
「こーやって、すぐに恥ずかしがるとこなんかも」
「ふふっ。かなりの入れ込みようね。うちの彼は……どうなのかしら?」
チラッと先輩へと視線を向け、愛美さんは答えを待つ。
「……言っとくけど、オレは人前ではしないぞ」
「分かってるわよ。そんなところも好きだから、安心してね」
そう言われた先輩は、微かに顔を赤らめていて。
なんとなく、恋愛の主導権は愛美さんが握っていそうだなと思った。
「ちょっと……抜けますね」
会話の途中、私はトイレへと向った。
すると、愛美さんも行きたかったらしく、出入り口で一緒になり、話しながら二人の元へと向う。
「ねぇ、紅葉ちゃん――佐々木さんのこと、好き?」
不意に、そんな質問をされた。
「も、もちろんそうですよ?」
「そうなの。そういえば、弟くんとも仲がいいのよね?」
「あ、はい。同じ学校ですし、よく遊びますよ。すごくやさしくて、いい友達です」
本当、親友って言ってもいいほど、橘くんのことは信頼している。
だからなのか、私の口元は、自然と緩んでいた。
「そうなのね。相手の兄弟とも仲がいいなんて、うれしいことよね」
「はい、本当にそう思います。あんまりやさしいから……たまに、兄の彼女だからかなって、思ってしまうほどで」
「ふふっ、そんなことないわよ。――きっと、あなたが大事なのね」
だ、大事だなんて……!
恥ずかしくて、思わず顔が熱を帯びる。
それに愛美さんは、ふ~んと、どこか満足そうに笑顔を見せた。
「――分かりやすいわね」
ぽつり、小さく何か呟く。
何を言ったのだろうと首を傾げていると、気にしないでねと、愛美さんはふふっと笑って見せた。
その後は席に戻り、またみんなで会話をしていた。この後まだ遊ぶかと思っていたけど、それはまた日を改めてということになり、今日は食事だけで解散することに。
そして私は、いつものようにカレを実家に送り……また、夜遅くまで過ごしていた。
ドアの向こうでは、おばさんが帰るようにと言っているのに、カレはそれが気に食わないらしく。