Liberty〜天使の微笑み【完】
第6話 求める心
あの日カレから言われた言葉の真意が分からず、私は悩んでいた。
どうして……あんなこと。
出会ったのが、本当に橘くんが最初なのかなと、幻想とも思えるそれが、もしかしたら現実かもしれないと聞いて、私はどう接していいか分からなくなっていた。
ただでさえ、あんなことがあったのに。
抱きしめられたのが嫌ではないものの、あれからお互い時間が合わず、あの日から会っていない。それが少し淋しい気がするけど、どことなくほっとしてるのも、また事実だった。
「紅葉~そっちは終わった?」
「うん、こっちはもう終わり」
残り作品の展示が終わり、他に仕事もないので、今日はいつもより早めの帰宅となった。
学園祭当日、美緒は模擬店を。私は生徒の作品紹介と、管理をすることになっている。
「今回はよかったね。クレープになったんでしょ?」
「もちろん! ジャンケンして勝ち取ったからね」
美緒はリーダーとなり、いつものようにみんなをまとめている。
本当、いっつも元気だから、そのうち体調を悪くしないか心配になるくらい。
「そーいえば……話は聞けたの?」
周りに他の生徒がいないのを確認し、美緒は訊ねた。
それに私は、まだ確信をしたわけじゃあないけど、数日前にカレが言っていたことを話した。
聞くなり眉間にシワを寄せ、美緒は険しい表情になる。
「肝心なところははぐらかすのね……ってかまた!? もう行くのやめなさいって!」
「わ、分かってるけど……」
「行かなくちゃって思う、でしょ?」
やっぱり、美緒にはお見通し、なんだ。
頷くと、はぁ~とため息をついてから、美緒は言葉を発する。
「本気で別れたいって思うなら、従ったらダメよ! でも、まずは順序を踏まないとね。写真があるのは困るし」
「うん……それが、一番怖い、かな。叩かれたりするのは、もう慣れてるっていうか」
「ははっ、私たちにとってのあるある話だよね。そーいう時期が長いと、変に耐久力ついちゃって」
美緒の言うとおり、そういうことには変に慣れてしまっていた。
「とにかく、こーいう場合は一人で別れようとしないことよ。特に、相手の家での別れ話はNG。何をされるか分からないからね?」
絶対ダメよ! と念を押され、それはしないからと、固く約束をした。
逆ギレされたら、それこそ今までのことなんて比じゃないだろうし……何より、おばさんや周りに被害がいくことが、すごくいやだ。
それならまだ、自分が叩かれた方がマシだって思う。
「ねぇ、今日も家に泊まらない?」
いつも突然のお誘いをされるけど、正直うれしかった。こうやって誘われるのも、本音を話せる友達も、美緒が初めてだから。
「いいけど、一度帰ってからね」
「よし、そうと決まったら――!」
「えっ、な、何!?」
突然私の手を掴み、美緒は走り出した。
どこに行くのかと思えば、着いたのは駅近くのコンビニ。
あれ……あの車って。
見慣れた黒色の軽の車に、私は徐々に、頬が熱くなるのを感じた。
「おっ待たせ~! さくちゃん、まずは紅葉の家まで~!!」
や、やっぱり……橘くんの。
ドアを開けるなり、美緒は楽しげに声を出す。それにはいはいと答える橘くんは、いつもと変わらない様子で話しかけてくる。
「ほら、市ノ瀬も乗って。なんだったら、前に乗るか?」
「い、いいよ! 美緒と一緒に、後ろに乗るから」
今隣になんて座ったら、絶対、変に緊張しちゃう!
そうなれば、ぎこちなくなるのは目に見えてるし……。
変に高鳴る胸を抑えるように、私は美緒の家に行くまで、大人しくしていることにした。
◇◆◇◆◇
美緒の家に着くと、私は料理を作っていた。美緒も作ってはいるものの、ほとんどのメインを、なぜか私に任されていて。
まぁ、作るのはいやじゃないからいいけど。
作ったのは、美緒が野菜炒めと味噌汁。
私はだし巻き卵と、茄子の肉詰め天ぷら。
四人では少ないかなと心配したけど、ご飯も食べるから、量は思ったよりちょうどよさそうだった。
作り終えてしばらくすると、お酒の袋を抱えた海さんが帰宅した。美緒が出迎え、お酒をテーブルの上へと並べると、みんなにお酒を持つように言い、いつものようにカンパイの言葉を言ってから、家飲みが始まった。
海さんは明日も仕事だからと、飲んだのはビール一本。それに比べて美緒は、海さんがいることもあってか、かなりはめを外し――既に梅酒を二本、ビールとカクテルの缶を一本空けていた。