Liberty〜天使の微笑み【完】
「な、なんか美緒……ペース早くない?」
「へ~き! いいのぉ」
そうは言っても、このまま飲むのは。
心配になり、チラッと海さんに視線を向ける。すると海さんは、家ではこんなものだからと笑っていた。
「ま、安心して酔えるって思ってくれるのはうれしいけど。――美緒、そろそろ止めとけ」
そう言って、海さんは美緒からお酒を奪い、代わりにお茶を手渡す。
「ん~……まぁ~だそんにゃ、よってらいよぉ?」
いや、充分酔ってるよ。
そんな突っ込みを入れたくなったものの、こういう時の美緒は少し絡むことがあるから、その言葉は内に留めておくことに。
目がとろんとして、美緒は海さんの肩に体を預けると、次第に目蓋を閉じていって――気が付いた時には、寝息をたてていた。
「しょうがねーな。寝かせてくるか」
そう言うと、海さんはそっと美緒を抱え、寝室へと連れて行った。
途端、それまで賑やかだったのが静かになって。
「…………」
「…………」
今ここに、二人だけしかいないということが、恥ずかしい気がしてくる。
自分が変に意識しなければいいだけのことなのは分かってるんだけど……もしかしたらという思いが、変に胸をざわつかせていた。
「……市ノ瀬」
「は、はいっ?!」
名前を呼ばれただけなのに、驚いたせいか、裏返った声を出してしまった。
「聞きたいことあるんだけど……いい?」
「いい、けど……ど、どうしたの? なんだか、改まっちゃって」
お酒のせいではないと思うけど、それまで楽しげだった橘くんの様子が、真剣なものへと変わっていた。
「アニキが渡したっていう手紙……まだ、持ってる?」
「えっ? も、持ってるけど、それがどうかしたの?」
「それ……見せてもらえない?」
射るように向けられて視線は、とても強く。どれだけそのことに真剣なのか、言わずとも伝わってくる。
「そ、そんなに、見たいなら」
明日にでも見せるよと言うと、橘くんはお礼を述べた。
「それと……もう一つ、聞きたくてさ」
一口お酒を飲み、続きの言葉を口にする。
「市ノ瀬は……これから、どうしたい?」
私に問うその目は、とても悲しくて。
出てくる答えを、まるで怯えるように待っていた。
どうしたいって……それって、純さんとのこと、だよね。
次第に俯いていくのが分かり、私は顔を上げ、ちゃんと答えようと、橘くんの目を見据えた。
「すごく、悪いとは、思うけど……」
言わ、ないと。
そしてあのことも、聞いてみないと。
目の前にあるお酒を一気に飲み干し、勢いで言葉を発する。
「もう……別れ、たいな。――だけど」
ぐっと、手に力が入る。
別れたい気持ちはあっても、簡単にはいかない。あの写メがある限り、不安は拭いきれないのだから。
「……写真、が。あるから、すぐには……怖く、て」
「それ、すっげーイヤなものなんだな」
「うん……撮らせた自分が悪いのは、分かってるんだけど、ね」
ぽつり呟いて、手にしているグラスを口に運ぶ。
橘くんもグラスを口へと運び、また、静かな雰囲気に包まれていた。
「――待たせたな。悪いけど、今日はお開き」
そう言って、海さんはテーブルに並べられた食器を手にする。
「あ、私が洗っておきますから」
「いいって。元々今日は、俺の当番だしさ」
そう言うと、海さんは慣れた手付きで食器を洗っていく。
私たちはテーブルを拭いたり、飲んだ缶を片付けていると、急に、カチャッとドアが開く音がした。