Liberty〜天使の微笑み【完】
◇◆◇◆◇
翌日、私たち三人は一緒に登校した。
橘くんの運転で学校に着くと、それぞれのクラスへと別れる。
昨夜、あれから特に何も起きることはなかった。
寝るのも、橘くんは出来るだけ離れてくれて。――なんだかそれが、少し淋しいと思ってしまう自分がいることに驚いていた。
「市ノ瀬さん、パンフレットどこ?」
「あ、それならここに。――はい、どうぞ」
今日は、講義が五限で終わりの日。
なので私は、今週末行なわれる学園祭の仕上げをしていた。
「――市ノ瀬、ちょっといいか?」
パンフレットを閉じていると、先生に声をかけられた。何だろうと思い近付くと、先生は気まずそうに、話を始めた。
「急で悪いんだが……学祭用に、何か一枚書いてくれないか?」
い、今から!?
学園祭まで、あと二日しかないのに……。
「予定より絵を増やそうってなったんだ。他から、お偉方の人も来るらしいしな」
聞くと、就職先になりそうな企業の人も来るらしく、目ぼしい人に声をかけているらしい。
「あの、別に私でなくても……それだったら、先輩たちの作品を置いた方が」
「一応、優先的には置くことになってる。だが――今なら、前よりいいものが描けるんじゃないか?」
大会の時よりも、ってことかなぁ。
確かに、今は少し気分がいいけど……。
「そう、でしょうか?」
「間に合えばでいいから、考えておいてくれ。な?」
ぽんぽんっと肩を叩くと、先生は立ち去って行く。
今なら……描けるの、かな。
大会用のを仕上げてから、授業以外で、進んで絵を描くことはしていない。
パステルだって、もう何ヶ月も手にしていなくて。
「――描いて、みようかなぁ」
久々に、そんなことを考えた。今までは、こうやって思っても、なんだか面倒に感じてしまうことが多くて。
家に帰ると、私は手早く家事を済ませ、部屋へとこもった。
引き出しに入れていた画材を引っ張り出し、イーゼルを立て、スケッチブックをそこに立てかける。意外にも、今のところ面倒な気持ちはない。
まずは……何を描こう。
久しぶりだし、一応は二日しかないわけだから、そこまで凝った作品には出来ない。
ふつうの白だけでなく、色画用紙も取り出し、何がそこに似合うかをイメージする。
「――あ、これ」
画材と共に、しまっていた本に目が留まる。それはパステルの使い方が書かれた本で、捲って見ると、一枚の絵に、興味をもった。
「雪柳、か。――これ、いいかも」
小さな白い花が、柳のように流れていて。可愛らしいその花を、描いてみようと思った。
携帯で雪柳の画像を眺め、目に焼き付ける。
「――決めた」
灰色の画用紙を立てかけ、パステルを手にする。青を基調とした色を広げ、手や布で擦り、時には練り消しで濃淡を付ける。
雪柳は、流れるようなのが特徴……だから、その流れに逆らわない。
初めてしまえば、自分でも驚くほど夢中に描いていて。
携帯が鳴っていることなど、耳にも入らないほど。一心不乱に、絵に向った。
「――描け、た」
ふぅ~っと力を抜き、両手をだらんと伸ばす。
椅子に背中を預け、出来た絵に目を向ける。
「本当に……描けちゃった」
こんなにもあっさりと描けてしまったことに、拍子抜けした。
「スプレー……しなくちゃ」
パステルの絵は粉が付くので、仕上げにはそれがかかせない。絵を手にすると、外へ行き、スプレーを吹き付けた。
それからは、一気に絵を仕上げたこともあってか、すぐに眠たくなってしまって。
携帯を見ることもせずに、眠りへとついてしまった。