Liberty〜天使の微笑み【完】

 やっぱり、アニキはオレのこと……ずっと、恨んでたんだ。
 ムリもない話だ。
 でも、オレだって何もしなかったわけじゃない。
 どうしてアニキばかり責めるのかと聞けば、長男だからと言われ。長男はしっかりするものだから、特に厳しく躾けるのだと。
 だからと言って、オレへの躾が甘かったわけではない。自分にもいつそんな仕打ちをされるのかと怯えながら、言われたことを学んで、復習して――相手がいかに、機嫌を損ねないかということに、必死だった。

 「とにかく、これ以上状況が悪くならないことを願うわ。無理やりやってるらしいし……既成事実でも起こさなければいいんだけど」

 考えたくないことを、鈴木さんは言う。でもそれは、起こりえる事実だった。
 ムリやりされてると分かってから、考えなかったわけじゃない。むしろ、いつかそんなことをされるんじゃないかって、気が気でなかった。

 「……愛美、言い過ぎじゃないか?」

 「けど、それぐらいの覚悟はしておいた方がいいと思うわ。実際、被害に合ってる人には、そういうケースもあるんだから」

 「そんなこと……させない」

 絶対に、それだけはさせない――!
 最悪の事態だけでなく、他のことからも絶対護るんだと、より一層、固く決意した。

 ◇◆◇◆◇

 『さくちゃん、今日は家でお泊り飲み会するから、車で来てね』

 朝っぱらからそんな電話をもらい、オレは今、コンビニで福原たちが来るのを待っていた。
 けど、数日前に市ノ瀬を抱きしめてから、今日みたいに長く会うのは久々で。

 「――避けられなきゃいいけど」

 大丈夫だとは思うが、多少の不安は心に残っていた。
 ってか、ちゃんと抑えれるのか?
 一度抱きしめてしまったから、抑制が効くかも心配で。未だに、あの時のことを思い出し、今まで以上に、頭から市ノ瀬のことが離れないでいた。



 「おっ待たせ~! さくちゃん、まずは紅葉の家まで~!!」



 相変わらず元気だなぁ。
 横にいる市ノ瀬に視線を向ければ、なんだか妙にもじもじとしていて。
 ……オレが、ふつうにしないとだよな。
 意識させないよう、いつもと同じように振舞った。
 福原の家に着いてからも、変にそーゆうことを考えるような言動は謹んでいたのに。

 「ん~……まぁ~だそんにゃ、よってらいよぉ?」

 まさかの福原が酔いつぶれ、しかも今回は、絡み酒という悪いクセまで出てきてしまい……海さんが部屋へと連れて行ったものの、片づけをしていればまたやって来て。

 「か、海さん。残りは、私がやりますから」

 「わ、悪いな……ってか美緒、絡むな!」

 「い~じゃんかぁ。久しぶりにぃ~エッ」

 「言うな!」

 福原が言おうとした言動に、多分その場にいた者は、全員予想がついただろう。
 こりゃあ海さん、離してもらえないだろうな。――色んな意味で。
 気まずい雰囲気になりながらも、なんとか片づけを再開していると……ふと、市ノ瀬の表情が消えているのに気が付いた。

 「気分、悪くしたか?」

 「だ、だいじょっ?!」

 途端、市ノ瀬はバランスを崩し、体が傾く。
 危ないと思った時には、既に体が動いて――支えようと手を伸ばしたのはいいものの、まさかの自分も倒れるという、情けない結果になってしまった。
 もっと……鍛えよう。
 とりあえずは、セーフ、だよな。
 胸元に市ノ瀬の顔があり緊張するが、それがうれしくもあり、自然と、頬は緩んでいた。
 ホント、このままずっと、抱いていられたらいいのに。
 離したくないという気持ちが募るものの、手を離そうとした途端――海さんに今の状態を見られてしまい、しまいには、枕と布団を持ってきて。



 「言っとくが――あんまり激しくするなよ?」



 と、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、部屋から出て行った。
 ――絶対、あの顔は期待してるだろ!
 当てつけのように置かれた布団を見ていると、この状況にどう対処したらいいのか迷ったらしく、市ノ瀬はやけに慌てていた。
 まー……そうなる気持ちは分かるよ。
 実際、平然としているように見えるかもしれないが、オレだって内心は、心臓がバクバク鳴っていて。
 こんな近くに好きなヤツがいて、何にも思わない方がおかしい。
 そんな中、市ノ瀬の口から、意外な言葉が飛び出た。
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