Liberty〜天使の微笑み【完】

 「月の雫、って聞いて……何か、思い当たらない?」

 「――――!」

 それは、オレが好きなヤツが描いた絵の名前。
 手紙を見ればと思っていたのに、それだけで市ノ瀬が、ホントにあの時の子だったと、再確認した。



 愛おしくて……もう、伸びた手を戻すことは出来ない。



 「そんなの……当たり前」



 頭では分かってる。こんなことをしても、市ノ瀬を困らせるんだって。だけど今は、その思いを抑えることは出来なかった。



 「知ってるに……決まってる」



 ホント、今すぐにでも自分のものにしたい。
 けれど、言ってしまえば、どうなるかなんて目に見えてる。それが歯がゆくて、今はしっかりと、この温もりを感じたかった。
 しかも、駅で会ったことまで覚えてたなんて。
 忘れてると思ったのに……そんなこと言われたら。



 唇に――触れたい。



 抱きしめるだけじゃ足りないと、全身が警告する。
 だが、それをしてしまえば、今度はオレが市ノ瀬を傷付けてしまう……それだけは、したくない。



 「もう少し……このまま」



 せめて、もう少しだけ。
 市ノ瀬の存在を、感じていたい。
 まだ、アニキという彼氏がいるのに。
 こんなことをするのは悪いって分かってて言うオレは、酷いよな。



 「……いい、よ」



 恥ずかしそうに服を掴む様子に、一瞬、理性が吹っ飛びそうで。
 市ノ瀬も……同じ気持ちだったら。
 これ以上の進展を、強く望んだ。
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