Liberty〜天使の微笑み【完】

 「せっかくだし、夜もご飯一緒にしない?」

 満面の笑みで言われ、私は少し間を置いてから、頷いて答えた。
 本当、今日は一日、すごく楽しい。
 こんな気分になったのは、いつぶりだろうと思うほどで。



 ――早く、言わないと。



 カレに、今の気持ちを言わなければと、決意を固めていく。
 美緒や海さん、そして何より……橘くんが、味方でいてくれるなら。ここから抜け出すんだと、自分に言い聞かせた。



 ――そして、家に帰るなり。



 私は、別れ話をするため、カレに電話をかけた。
 やるなら、早い方がいい。
 そうしないと、今以上にずるずるといってしまうと思った。
 画像を悪用されるのは怖いけど、顔が映った写メは一枚もない。流されてもいい覚悟を決め、カレが出るのを待った。

 『……なんか用?』

 気だるそうに声を発するカレ。
 低い声に少し怖く思ったけど、呼吸を整え、ゆっくりとカレに、胸の内を明かした。

 「私は……もう、純さんとはいられない」

 『…………』

 「あの手紙……純さんが、書いてないでしょ? 嘘を付かれるのは、嫌だから」

 『……そうか』

 短い言葉だけで、カレはそれから、しばらく言葉を発することはなかった。

 「だから……もう、一緒にいられない」

 泣き出しそうな、今にも震えて言葉が詰まりそうになりながらも、必死に言葉を紡いでいく。

 「私と……別れて、下さい」

 『…………』

 先程と違い、長い長い沈黙。
 また怒られるのか。
 画像を流すと言われるのかと、怯えながら待っていると。



 『……ほらな、やっぱり捨てる』



 諦めたような、冷たい音声が聞こえた。

 『……別れてやるよ』

 意外な言葉に、間の抜けた声をもらすと、カレは言葉を続ける。

 『どうせ、こうなると思ってたし。――じゃあな』

 そう言うと、カレはすぐに電話を切った。
 残ったのは、ツー、ツーという機械音だけで。
 こんなにあっさり……終わっちゃった。
 体から力が抜け、その場にへたりこむ。
 これでもう、無理やりやられることがないかと思ったら、今更のように、涙が出てきた。
 早く美緒たちに知らせたかったけど、今ので気力を使ってしまったせいか、酷く疲れてしまい――その日は、すぐにベッドへと体を預けた。

 ◇◆◇◆◇

 次の日、私はちょっとした有名人になっていた。
 昨日橘くんに抱えられていたのが原因らしく、多分橘くんの友達じゃないかなと思う男子たちから、お幸せに~! なんて、そんなことを言われて。
 そのせいか、昨日カレと別れたことを、まだ美緒たちに言えないでいた。

 「一気に有名人ねぇ~。それを活かして、売り子やってよ」

 ちょうどいいしと言って、美緒は笑う。

 「べ、別にそんなんじゃあ……。売り子は、午後からなら」

 「じゃあ午後はよろしくね」

 学園祭が始まり、私は自分の持ち場である展示室へと向った。
 毎年たくさんの人が来るので、三階にあるここの展示室にも、結構見に来る人がいる。

 「ねぇ、これ置いたのって市ノ瀬さん?」

 同じ当番の女子に声をかけられ、何だろうと思いみて見ると――私が描いた作品の前に、手紙が添えられていた。

 「なんか、裏には「駅の思い出」って以外に、名前とかないんだけどさ」

 それって……。

 「たぶん、知り合いが置いて行ったんだと思う」

 そう言って、私はその手紙を受け取った。
 中身を確認しようと、廊下の端に行き、封を切って見ると。

 「……やっぱり、同じだ」

 そこには、多少内容が違うものの、以前カレから渡されたのと同じ手紙が書かれていた。
 あそこに絵を飾ってることは、先生と橘くんしか知らない。
 だからこれは……きっと、橘くんが置いて行ったんだと思う。
 途端、早く会いたい気持ちが膨らんで……今からでも、橘くんの元へと行きたくなった。
 でも、今は当番中。離れるわけにはいかないと、自分に言い聞かせながら、展示室へと戻って行った。
 展示品の管理や説明をしながら、来客した人に紹介をする。まだ一日目とあってか、午前中はそんなに多くなく、ゆったりとして過ごせていた。
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