Liberty〜天使の微笑み【完】



 「――っ、い」



 うまく……言葉が、出ないよ。
 声が上ずって、ちゃんと、返事を伝えられない。
 目の前が滲んで、目も開けられないほど、涙が溢れていく。



 「ははっ、泣くことないのに。――もう、離さないから」



 途端、体は強い力で引かれ、ステージへと上げられる。
 何が起きたのかと思っていれば、ぎゅっと体を抱きしめられ、やわらかな温もりに包まれていた。



 「……好きだよ」



 耳元で囁かれたそれは、幸せそのもので。
 体にゆっくりと入り込み、私を満たしてくれる、一番の言葉だった。



 「よかったねぇ~!――さくちゃん、よく言ったぁ~!!」



 美緒の声が、沈黙を打ち破る。
 そしてせきを切ったように、会場からは、様々な声が上がった。ほとんど何を言っているのか分からないけど、歓迎してくれているというのは、雰囲気で伝わる。
 今はもう、恥ずかしいとか、そんなこと考える余裕はなくて。
 少しでも長く、このままでいたかった。



 「え、えっと……思わぬ展開になりましたが。――こ、これにて、デザイン科の展示は終了でーす!」



 司会者は、少し慌てた口調で幕を閉じる。
 けれど、それからしばらく、会場から歓声がやむことはなかった。



 理由は、私たちがその場を離れた後も、ステージ上で告白をする人が続いたから。



 テンションが上がっているということもあり、ふだんは言えないような、ちょっと違った告白もする人も現れ――学園祭は、最後まで盛り上がりに包まれていた。



 「帰り……待ってるから」



 それに頷き、私は橘くんと別れ、美緒とともに片づけを始めた。
 本格的なのは明日からだけど、机を中へと入れるぐらいの作業は、今日中にするようになっている。

 「よかったねぇ~ようやく結ばれて」

 ふふっと笑みをこぼし、美緒は楽しげに声を出す。

 「は、恥ずかしいから……そんなに言わないでよ」

 「もぉ~今が一番楽しい時なんだから、からかいたくもなるわよ!」

 それからも、美緒以外の人にも声をかけられ、答えるのが大変だった。
 いつから好きなの? とか、もうキスしちゃった? とか、たくさんの質問に、やんわりとかわしながら、私は展示室へと向っていた。



 「よ、ようやくいなくなった……」



 先程までいた人だかりはなく、私はようやく、安堵のため息をついた。

 「閉め忘れはなし、っと」

 窓がきちんと閉まっていることを確認し、最後に教室のドアに鍵をかけた。あとは、これを職員室に返せば、仕事は終わりだ。



 橘くん……もう、来てるかな。



 ちょっとしか離れていないのに、早く会いたいという気持ちが高まっていて。



 「――紅葉」



 こんなに近くに、誰かが来ているなんて、思いもよらなかった。



 低い声が、廊下に響く。
 振り向けば、そこには今、会いたくない人物の姿があった。



 「言ったよな? お前は、俺が好きだって。――なのに、なんでアイツを選んでんだ?」



 心は強く保たれているものの、体が、思うようにおいついてくれない。
 目の前にいる人物……佐々木純哉を見ただけで、体は自然と、硬直していた。
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