Liberty〜天使の微笑み【完】
「そんなことのために起こしたわけ?」
「だって、悪かったと思ったから……ちゃんと、謝らないとって思って。――ごめんなさい」
その言葉を聞き、カレはチッと舌打ちをする。
「それ……お前の自己満足だろう? 別に、俺は謝ってほしいわけじゃねーから」
自己満足だなんて……悪いと思ったから、謝ろうとしただけなのに。
「つーかさ。――昨日、どんな格好で遊んで来た?」
「えっ……あ。ワンピースに、下はトレンカはいてだけっ?!」
ぐいっと腕を引き寄せられたかと思うと、間近に、私を睨み付ける目があった。
「なんでスカートはいてんの? はかないって言ったよな?」
「そ、そんな……」
だって……気にするなって言ったのは、純さんだよ?
確かに付き合い始め、カレに悪いからとスカートははかないようにすると言ったものの、下にGパンやトレンカをはけば問題ないということで話はついていたはずなのに。
どうしてそんなことを言われるのかが分からず、私は、言葉を詰まらせていた。
「自分から言っておいて……破ってんじゃねーよ」
「――っい」
乱暴に腕を払われ、思わず体が傾く。
掴まれた部分が痛み、片手で擦っていると、純さんはつまらなそうに言葉を発する。
「――寝るから邪魔するな」
反論なんて許さないような声で、カレは再び、ベッドへと体を預けた。
最近……こういう雰囲気になることが多い。
だいたいは私がこうやって、カレを不満にさせるからなんだけど。
「――寝るって言ってんだろう?」
それはもう、この部屋から出ろという言葉に他ならない。
返事をすることもなく、私はただ頷いて、静かにカレの部屋から出て行った。
――それから数時間、カレはずっと眠ったままだった。
起きたカレは、昼間の機嫌の悪さなどどこかへいってしまったかのように、至ってふつうで。借りてきたDVDを、一緒に見ていた。
「この後……どうなるんだろうね?」
借りてきたのは、推理ものの映画。
謎解きだけでなく、意外にもアクション的な要素も含んでいる。
集中しているせいか、声なんて聞こえないように、カレはテレビを見ている。
別に、たくさん会話しながら見たいわけじゃないけど……たまには、ほんの少し見ている内容について話したい時もあるわけで。
「黙って見てろ。――いっつもうるさいんだよ」
こちらを見ることなく、カレは淡々と言葉を口にした。
どうしよう……純さんから、重苦しい雰囲気を感じる。
明らかに険しくなる表情に、私は身を硬くした。
こうやって、相手が険悪な雰囲気を漂わせていると、他人より敏感に感じてしまう。
それは……私がそういう環境に、長くいたせいかもしれない。
無意識に、嫌な空気を感じ取り回避しようとしてしまって。
ダメ、だ……こんなんじゃ、また――。
不安な様子を察しされないよう、視線が合えば、私は笑顔を向ける。それにカレが何か言うわけじゃないけど、一緒にいて楽しいという雰囲気を出すようにした。
空気は重く感じるものの、好きなカレといるのだから、これは楽しいのだと、自分に言い聞かせながら。
「今度……弟に会わせるから」
映画が終わると、カレはぽつり、そんな言葉を口にした。
「弟って……」
「お前と同い年。アイツ、今一人暮らししてるんだよ」
今まで、ここに来るのも半年以上かかったのに。
まさか、カレからそんな提案をされるなんて、思ってもみなかった。
「いい、の? 弟さんに会っても」
「アイツも見たいって言ってたからな。それに――」
手を差し伸べてきたかと思ったら、体はすっと引き寄せられ、私はカレの腕の中にいた。
「もう一年になるんだから、いい頃だと思ってな」
そう言って、カレは私の唇を奪った。
さっきまで、なんだか重い空気がしてたのに……。
久々の口付けにとろけていると、耳元で、カレが囁く。
「だからさ――今日は、まだいいだろう?」
「えっ……」
言われて、視線を時計へと移す。
時間は十時を回っており、明日のことを考えると、もう帰った方がいい時間だった。
「なぁ……いいだろう?」
「でも……明日、学校で寝ちゃいそうで」
「んなもん、寝ても問題ねーって」
「だ、だけどっ?!」
反論なんて許されることはなく、再び、唇を奪われていた。
初めは抗っていたものの、次第に、カレから触れられた部分が熱を持ち始めて……。
ドアの向こうから、カレの母親の声が聞こえても止めることはなく。
カレが求めるまま……その感覚に、身を任せてしまった。