Liberty〜天使の微笑み【完】

 「なぁ……何か言えよ!」

 「っあ、ぐ……」

 ドスッと、鈍い音がする。
 何が起きたか分からなくて……私の体は、床にひれ伏していた。

 「俺と、いろよ。そしたら、アイツは苦しむ。同じ痛みを……いやそれ以上! アイツを、苦しませることが出来る!」

 はははっ! と、笑い声をあげる。
 耳障りで、とても歪んだ音声。
 ようやく頭がおいついたのか、自分に何が起きたのかを把握した。

 「はっ、ぁ……」

 腹部には、じんじんと痛みが広がって。それに私は、おなかを護るようにうずくまっていた。

 「何も言えないのか?――これぐらい、痛くもなんともねーだろ?!」

 再び、ドスッと鈍い音がし、おなかと手に衝撃が走る。
 思わず苦悶の声がもれ、身を丸め護るものの、今度は背中に、強い衝撃が走った。

 「っ?!……はっ、が」

 「あぁ…そうか。お前、弱いんだよな。――悪かった。なぁ紅葉、戻って来てくれよ」

 荒々しいと思えば、手の平を返したかのような、やさしい態度。
 気分の起伏が激しく、もはやふつうではないカレに、今更のように恐怖を覚えた。



 はや、く……逃げ、ないと。



 なんとかして、この場から逃げ出したい。今のカレは、何をするか予想もつかないのだから。

 「……っ、い」

 「聞こえない。ってか、戻らないなんて言ったら……もっと、痛いと思うけど?」

 ふふっと、怪しい笑みを見せるカレの目は、もはや異常。
 逃げるにしても、体には痛みがあり、すぐにはまともに動けない。そうなれば、あっという間に掴まってしまう。
 意外にも頭は冷静で、これからどう逃げようかと思案する。
 この時ばかりは、ほんの少し、自分に虐待経験があるのをよかったと思ってしまった。
 叩かれるのも、罵倒されるのも慣れている。



 だから……こういう時は、思い出せばいい。



 体は別物。
 痛いのは自分じゃない。



 今までそうしてきた。
 だからもう一度、人形のようになって耐えれば……。



 その間にも、カレはまた体を蹴り、そしてやさしく問いかけるというのを繰り返す。



 一か八か……やるしかない。



 再びやさしくなった時を見計らい、ゆっくりと手を動かす。
 気付かれないよう、携帯を手にする。うずくまっていることもあり、おなかの部分で手を動かしても、今のところ気付かない。



 ……お願い、気付いて。



 一番最近の履歴であるボタンを押し、電話をかける。
 今は片付けの最中。しかも学園祭の後だから、ふだんより気付かれる確立は少ない。
 けど……美緒たちなら、きっと。
 最近電話をかけたのは、美緒たちしかいない。大丈夫だと信じて、携帯を握り締め耐えていると。



 『……? …、…』



 微かに、声が聞こえた。
 繋がったことが分かり、私は大きく息を吸い、ありったけの声を発する。



 「たす、けて……! 展示室! 純さっ?!」



 「へぇ~……まだ、考える余裕あったのか」



 携帯を取り上げると、カレはそれを、無造作にどこかへと投げる。

 「あ! いっ?!」

 「俺のことだけ……見てろよ。なんでお前は、俺に従わない!!」

 髪を引っ張り上げ、顔を近付けるカレ。
 次に何をしてくるのかと思えば……。

 「んっ?!…、……っ!」

 頭を押さえられえ、無理やり、唇を重ねられた。
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