Liberty〜天使の微笑み【完】



 「――――よし!」



 マネキンに服を着せ、急ぎながらも、丁寧に作品を運ぶ。
 既に最後の組が出ていたが、司会者に話は伝わっているようで、一番の見せ場で、作品を出してもらうことになった。
 出場者が整列し、誰もがこれで終わりだと思わせたところで、照明が消される。
 中央に二人がかりで運び、一旦後ろへと下がると、作品に照明が照らされた。
 司会者からマイクを借り、いよいよこの時が来たと、心は高揚してく。
 何度か深呼吸をし、作品以外のもう一つの目的――市ノ瀬に思いを伝えるため、残りの時間を使う。



 「オレ……高校の時から、思ってる人がいます」



 始まりはそう、学校へと通う駅だった。
 いつも見かけているわけじゃないけど、たまに見かける姿が、妙に印象的で。

 「ずっと忘れられなくて、他の人といても、違う気がした。――けど、再会した時には既に彼氏がいて」

 一番心惹かれたのは、絵を見た後。
 キレイな色合いで、やわらかな印象を受けるものの……どこか儚くて、淋しい印象も受けた。
 けれど、それから君に会えることはなくて、数回交わした言葉を頼りに、この辺りで一番大きな美術の大学に入って……君を、見つけた。
 だけど、もうその時には、手に入らない存在になっていたことに、あの時もっと話さなかったことを、何度も悔やんだ。
 しかもそれが、アニキの彼女だって言うんだから、悔しさはかなり倍増されて……。

 「だから、この気持ちは抑えよう。言ってはいけないことだと、自分に言い聞かせてたけど。――もう、抑えるのはやめた」

 市ノ瀬に視線を合わせ、真っ直ぐに見つめる。


 
 「あの時から……ずっと、君に惚れてた」



 忘れてると思った最初の出会いも、市ノ瀬は覚えてくれてて。
 それが、どれだけうれしかったことか。
 こうして思いを告げることも、触れ合うこともないと思っていたのに。



 「今日の時間だけじゃ……足りない」



 目の前に行き、片膝を付いてマイクを横に置く。
 これから先の言葉は……市ノ瀬だけが、聞いてくれればいい。
 今の時間だけじゃなく、明日も、明後日も。
 これから先の時間を、共に過ごしてほしい。



 「これからの時間……恋人として、オレにくれない?」



 涙を流す市ノ瀬の両頬を包み、囁くように言葉を発する。
 答えは、泣いているせいかちゃんと聞き取れなかったけど……笑顔でオレを見る様子に、言葉にしなくても、なんと言おうとしているのか分かる。
 答えが分かった途端、うれしさのあまり、オレは市ノ瀬を抱え上げた。ステージに立たせると、周りの目なんて考えず、全力で抱きしめる。
 それに市ノ瀬も、背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめてくれて――こしていられるのが、幸せ過ぎて、怖いと思えるほど。



 「……好きだよ」



 そう耳元で囁くと、市ノ瀬はまた、ぎゅっと抱きしめてくれて。過った不安は、一瞬でなくなってくれた。



 絶対……君を離さない。



 目の前にいる愛しい人とのこれからを思い描きながら、この手をしっかりと握り、ステージから下りて行った。

 ◇◆◇◆◇



 「よっ! 今日の主役~!!」



 片付けの最中、今朝以上に周りにからかわれていたものの、イヤな気はしない。
 みんな祝福してくれているし、自分も言うきっかけになったとお礼まで言われ、少し恥ずかしい気持ちすら感じていた。

 「お前は返事よかったのか?」

 「あぁ、バッチリな! こっちも幸せオーラ全開で、明日からガンバレそうだ」

 友達も返事はOKだったようで、これから彼女と帰るんだと、楽しそうに教室を出て行く。
 オレもそろそろ行くか。
 大体の片付けが終わり、足早に待ち合わせをした校門へと向う。
 市ノ瀬はまだ来ていないらしく、しばらくまっていると、福原たちがやって来るのが見えた。

 「お、さっそく二人で帰るんだぁ~? お熱いことで」

 「そっちだって同じだろう?」

 手を握っている二人は、照れることもなく、むしろ見せつける勢いで幸せオーラを出してくる。
 いつもなら何かツッコミでもと思うが、今日はそんな気が起きない。きっと、それはこれから、自分もこーゆう雰囲気を出していくからだと思ったからかもしれない。



 「――美緒、鳴ってるぞ」



 海さんに言われ、福原は携帯を見る。すると楽しげに、紅葉からだよぉ~と、オレに見せてきた。早く出ろよと言うと、福原は、はいはいと言って、明るい様子で電話に出る。

 「は~い、どうかしたぁ?――紅葉?」

 福原の表情が、徐々に険しくなる。
 どうしたのかと思っていると、微かに、叫び声のようなものが耳に入った。

 「く、紅葉!? ねぇ……返事してよ!!」

 血相を変え、福原はオレたちの手を引き走り出す。
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