Liberty〜天使の微笑み【完】
「――まだ、帰らないよ。部屋の外にいるだけだから」
そう言って、ぽんと頭に手の平が置かれる。
こうされるの……なんだか、安心するかも。
帰らないことにほっとすると、私は手を離した。
二人が部屋から出て行くと、先生は隣に座り、すみませんと謝罪の言葉を口にする。
「先に警察の方が来てしまい、本当にすみません。――突然のことで、動揺しましたよね?」
いきなり警察の人が来て、驚かない人はいないだろう。頷く私に、先生はゆっくりと話を続ける。
「もう少し後に、と思っていましたが……市ノ瀬さんは、話を聞く覚悟はありますか?」
覚悟、って……。
「今よりも、辛い思いをすることになると思います。けれど、最近は少しずつ思い出してきていますから、無理に聞くこともないですが……」
どうしますか? と聞かれ、私はしばらく、反応を示すことが出来なかった。
ここ一週間で、少しは思い出してはいるものの……やっぱり、確信に迫ることは思い出せない。
それに、警察の人が来たということは、それなりのことがあったわけで――聞かないまま過ごすのは、もう、出来ないと思った。
携帯を手にし、文字を入力していく。
そして先生に、教えてほしいという意思を伝えた。
「……分かりました。ですが、無理はしないで下さいね」
体に痛みがあれば言うようにと念押しされ、先生はゆっくりと、何があったのかを話していった。
「あなたは学園祭の後、事故にあい運ばれました」
最初の話から、私は驚かされた。
携帯で日にちを確認していたから、なんとなくは分かっていたものの、既に学園祭が終わっていたことに、残念な気持ちが湧いてくる。
「事故にあったのは……学校の階段です」
自分がどうやってケガをしたのか説明されていると、心臓がやけに、ドキッ、ドキッと大きく脈打っていく。
嫌な感覚がして……体から、変な汗が出てくる。
「ケガをしたのは不注意からではなく……あなたの知っている人が、突き落としました」
途端、心臓は一際大きな音をたてた。
突き、落とした――?
頭の中をその言葉が駆け巡り、思わず眉をひそめる。
「突き落とした人物は、佐々木純哉。――あなたの、元彼氏だそうです」
先生の言葉が、理解出来ない。
今、何を言われているのか。それを理解するのに、暫しの時間を要して。
把握が出来た途端、気持ちが掻き乱された。
純、さんが?
それに、元カレって……何?
話はまだ終わっていないというのに、体は、明らかに拒否反応を示していた。
気持ち悪くて、頭の中を直接叩かれているかのように痛くて。
目の前が眩み、思わず前かがみになる私を、先生はそっと横たわらせた。
「まだ、刺激が強いようですね。――続きは、またの機会にしましょう」
そう言って、先生は私に、休むようにと言う。
言われたからではないけど、目を開けているのも辛いほど、体がに力が入らなくて――ゆっくりと目蓋を閉じ、体から力を抜いてた。