Liberty〜天使の微笑み【完】
「笑顔っていうよりは、微笑んでるって感じかな。でも、きちんと笑えてたよ」
頭を撫でながら、満足そうに言う姿に、私は心が温かくなっていく。
「やわらかい、いい顔だった。――ようやく、笑えてきたね」
「よ、よかった。絵もだけど……ちゃんと笑えたら、やっぱり、一番に見てほしいなぁって、思ったから」
今更ながら恥ずかしさが込み上げ、私は橘くんの服をぎゅっと掴みながら、言葉を発した。
「一緒に楽しいことをしても、笑えないのは、淋しいから」
本当によかったと、安堵の声をもらした。
「仮にうまく笑えなくても、オレは嫌わないから――安心、して?」
微かに残っている不安をも、全て拭い去ってくれるかのような言葉。そっと髪に落とされたキスに、思わず顔を上げると――ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべた橘くんを視線が交わる。
な、何か考えて、る――?
今までの経験からか、なんとなく、また恥ずかしいことをするんじゃないかという考えが頭に過った途端。
「夜まで……帰らないんだよな?」
そんなことを言ったかと思えば、体がふわりと持ち上がる。
えっ……これって。
体が倒され、背中には、やわらかな感触。
視界には天井が映り、そこまできてようやく、ベッドに倒されたことに気が付いた。
「あんな言葉聞いたら……男はみんな、勘違いするよ?」
両腕を掴まれ、視界に、橘くんの顔が入ってくる。
いわゆる、馬乗り……という状態だろうか。体の上には、覆いかぶさるように、橘くんの体が間近にあった。
「顔、赤いよ。な~に考えてんのかなぁ?」
その言葉に、私は余計、顔だけでなく体中が熱くなる感覚がした。
こ、こんな状況だったら……誰って、赤くもなるよ!
「あ、あのう……まさか、ここ、で?」
してしまうんじゃないかという考えが、頭に過る。
おどおどする私の様子が楽しいのか、橘くんはふっと怪しい笑みを見せ――そっと、耳元に、顔を近づけた。
「しないよ。言っただろう? 市ノ瀬が求めるまではしない、ってね」
まるで、私を試しているかのような、そんな言葉。
確かに、言われたけど……。
心では、すぐにでも一緒になりたいという気持ちがあるのに、体はまだ、それを受け入れることが出来なくて。
どう、しよう……。
受け入れなければいけないのか。
でないと、嫌われてしまうのではという、嫌な考えが心を支配しそうで。
ちぐはぐな感覚に胸を痛めていると、大丈夫だからと、やわらかな音声が耳に入る。
「しなくちゃいけないのかなと、そんなこと、考えなくていいから」
「ど、どうして……」
心を読んだかのような言葉に、私は驚きを隠せなかった。
だって、いくら待ってくれるとは言っても……その、我慢出来ない時だって、あるだろうし。
「好きな子のためなら、これぐらい当たり前」
「っ……!?」
ふっと、笑みを見せた途端……唇に、やわらかな感触があった。触れるだけのキスをすると、橘くんは笑顔で、私を見つめた。
「だから――余計なこと、考えるなよ?」
いつか聞いた、低くて色っぽい声。
これ以上悩むなと言うその言葉に、キスをされたドキドキも合わさり、私の心臓はもう、爆発寸前なほど、鼓動を増していた。
そんなこと、言われたら……。
することは出来なくても、もっと、近くに感じたいと思ってしまう。こんなこと言うのは、男の人には酷かもしれないけど。
「……あの、ね?」
ゆっくり言葉を発すると、何? というふうに、橘くんは首を傾げる。
「ま、まだ出来ない、けど……一緒に、横になりたい、です」
自分でも、大胆なことを言ったのは分かっている。恥ずかしいけど、それでも今は、言葉にして伝えたい気持ちの方が勝っていて。――言葉を発したあと、真っ直ぐに、橘くんを見つめていた。