Liberty〜天使の微笑み【完】
おまけストーリー絵画から始まる恋~朔夜side
学校から、自宅へと帰る途中。オレは、あることが日課になりつつあった。
「……いない、か」
それは、高校二年の終わり頃だっただろうか。
いつもの駅に、見慣れない絵が飾られていることに気が付いた。駅員のおじさん曰く、何かないと淋しいと思い、よくここら辺で絵を描く少女に頼んだのだと。
絵は、月が大きく描かれていて、そこから雫が滴り落ちる様を描いている。青を基調として描かれたそれに、正直オレは……一目惚れ、だった。
単純にキレイだからではなく、その先には、何かあるんじゃないかと思わせるような色合いに、すっかり魅入られていた。
「――あの子なら、今日は来とらんよ」
ホームできょろきょろとしていると、駅員のおじさんにそんな言葉をかけられる。
「毎日来るわけじゃないからの。――君、あの子に恋でもしたのか?」
ニヤニヤとした表情で聞かれ、オレは咄嗟に、違いますよ! と、声を出していた。
「絵を、描いてるみたいだったので……なんとなく、気になっただけです」
あれから意識して、絵を描いたであろう少女を探していると、何度か、それらしき子を見かけた。けれど、声をかけるチャンスはなかなか訪れることはなく……数回見かけただけで、初めてその子を見かけてから、もう一年が経っていた。
空は灰色に染まり、今にも雪が降ってきそうな天気。
凍てつく空気が、今日はいつにも増して肌に突き刺さるほどあって。日が暮れるにつれ寒さは増していき、マフラーに首を引っ込めながら駅へと歩いていた。
「――――!」
入り口に目をやった途端、オレは、その場に立ち止まった。
そこにいたのは、胸元まで伸びたダークブラウンの髪をした少女。手には画板らしき物を持っていて、空を、じーっと見つめている。
あの少女だと思った途端、視線はもう、その少女に釘付けだった。
「…………」
何、見てるんだ?
自然と、オレも同じように空へと視線を向ける。けれど、何があるという訳でもなく。空は相変わらず、灰色の薄暗い感じでしかなかった。
「あ、れ……今まで、いたはずなのに」
視線を駅へと戻すと、さっきまでいたはずの少女は、もうそこにはいなくて。足早に駅へと向かうと、少女は、待合所で何かを描いていた。
その場には他に誰もいなくて、話しかけるなら、今しかないんじゃないかと、そんな考えが過る。
「――何、描いてるんですか?」
手を止めると、少女はゆっくりこちらを振り向く。
初めて近くで見る顔に、結構カワイイな、なんて思ってしまった。
「えっと……天使、です」
少し間を置いてから、そんな言葉が聞こえる。
小さく紡がれた音声に、少し、凛とした印象を受けた。
「へぇ~天使か。そーゆうの描くの、好きなの?」
「好き、というか。―――どうしても、描けない、から」
そう言ったあとの少女の表情が、みるみるうちに曇っていく。
描けないって、練習してるってことか?
余計なことを聞いてしまったのかと思っていると、少女は再び手を動かし、絵を描き始めた。
……これ以上は、邪魔になりそうだな。
集中しているのに悪いと思い、オレは一言、邪魔してすみませんと言ってから、ホームへと向った。
「――別に、邪魔じゃあないのに」
少女がそんなことを言ったなんて知らないまま、オレはホームに入って来た電車に乗り込んだ。