二重人格



「ほらっ、貸して」


タケが手招きして合図する。
私は無言でパスをした。


「ここから、腕を曲げて」


息を吸ってはく、息を吸ってはく。


「深呼吸する…

そっから投げる」





シュッ!


気持ちよくシュートが決まる。


「ナイスシュートッ

ほらねっ」



満足気な顔をして私にパスを回す。
渡されたボールはずっしりと重かった。


言われた場所に移動して構えてみる。



「違う、
ここはこう」


後ろから私の手の上からボールを抑えて腕を動かす。


「…深呼吸」



言われた通りに瞳を閉じてスーッとゆっくり吸い込み、ゆっくり吐く。


魔法みたいに嫌な思いが流されて無心になる。
苦しかった気持ちも一気にほどかれた。



不思議。
楽になれる。



瞳をゆっくり開けてボールを軽くゴールに向ける。










シュッ!!



「ナイス!」


『やった』


その瞬間解放されたように体の力は抜け、体育館の床に座り込んだ。



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