はなぼうっ!
『こたちゃん……!』
電話の向こうで聞こえた実希は、何故かひどく鼻声だった。
まるで今さっき泣いたばかりのような……。
「なんかあったのか?」
まさか今日アドレス交換してた奴から変なメールでも来たのか、それとも騙されて変な男と付き合う事にでもなってしまったのか……。
「…………」
『あの、ね……?』
今まで考えていた内容が内容な為、この時の虎太郎には『冷静さ』が完璧に欠落していたのだ。
「誰だ!?」
……そう信じたい。
『え? ……誰って……野原さんのお家のしんちゃん、かなぁ』
「野原!? よしソイツのケー番教えろ! 俺が直接話を……ん? 『野原さんのお家のしんちゃん』……?」
「しんちゃんがケータイ持ってるの!? 五歳なのに!?」
「……………………」
そして虎太郎は無言で電話を切った。
「何やってんだ……俺」
実希は十中八九クレヨンしんのすけのアニメでも見て号泣したのだろう……。
いつもの展開を考えて、説明の下手な実希の話しを最後まで聞けばすぐに分かったことだというのに。
「っつーかどんだけ独占欲だよ」
もう虎太郎は布団にくるまって自嘲気味に笑うことしか出来なかった。
文字通り、穴があったら入ってしまいたい気分だ。
もし庭があれば実行しているかも知れない……。
あいにくバルコニーしか無いため出来ないが、本気でそんな心境なのだ。
──鳴り響く実希の着信にも出る気にはなれなかった。