はなぼうっ!
「……電波悪いのかなぁ?」
先程切れてから一度も繋がってくれない携帯電話に対してぼやきながら、実希は溜め息と共に肩を落とした。
「直接行っちゃおうかな……」
チラリと壁掛け時計に目をやると、すでに22時を過ぎていた。
さすがに幼なじみと言えども押し掛けるには遅過ぎる時間だ。
それに今の時間はお仕事で疲れている虎太郎の母親も帰ってきている。
「……」
頬を風船の様にプクーっと膨らませた実希は、虎太郎の家に行くのは諦めて、携帯を充電器に差すとベッドに潜り込んだ。
特に急ぎの用というわけではないのだ。
実際は明日でも明後日でも……一週間後だって間に合う事だ。
──ただ……、
「こたちゃんの馬鹿」
今まで嬉しいことや楽しいこと、思い付きは即座に虎太郎に話していた。
虎太郎は電話を掛ければすぐに出てくれたし、今日みたいにブチッと切れて、かけても繋がらないなんて事は初めてだった。
実希からすればそれが不安で、どうしようもなくもどかしくて悲しくて、自分でも理由なんて分からないモヤモヤが胸の中をぐるぐると回っているようで……。
「……実希、なんかしちゃったのかなぁ」
最終的には涙まで出てきた。
性格上、女子に嫌われる事は少なくなかった。
クラスの中心に立つ女子に嫌われてしまえば、男子からだって嫌われる。
しょせんは人間なんて殆どが『スネ夫』なのだ。
強い人の所に付きたがる。
そこは実希も分かるし、否定はしない。
だけど、虎太郎は違った。
どんなに実希が嫌われても、虎太郎だけは友達のままで居てくれたのだ。
虎太郎は人気者だったから、実希にも(男子ばかりだが)友達だって出来た。
──虎太郎がいなければ、実希は今の実希じゃなかったかも知れない……。
他の誰に嫌われるのは別に構わないのだ。
ただ、虎太郎にだけは嫌われたくない……。
「明日はこたちゃんのお部屋入るの止めようかな……」
こうして実希は溜め息をひとつ、ようやく眠りに着いた。