はなぼうっ!
翌朝、珍しく実希の家のインターフォンが鳴り響いた。
「う……?」
一瞬虎太郎かとも思ったが、時計を見ればまだ早朝五時。 既に八時を回った遅刻寸前に虎太郎が迎えに来るのは良くあることだが、こんな早い時間に虎太郎が起きるだなんて有り得ないことを知っている実希は、もう一度布団を頭から被って目を閉じた。
まだ起きる気なんか毛頭無い。 黙って無視していればその内諦めるだろう……そう思った実希の耳に、小さな声が届いた。
「すいませーん。 花森高校の倉本っつーモンですけど……っつーか田中一人暮らしだろ、さっさと起きろー!」
「──っ!?」
なんだかひどく呂律が怪しい気がしたが、それは確かに昨日の『カツラ先生』──倉本保険医の声だった。
学校の先生……それも保険医が入学したての生徒に何の用なのか?
それも気になったが何より、
「あんまりうるさいと皆起きちゃう……!」
それが一番の心配だった。
実希は慌てて寝間着に適当なカーディガンを引っかけると、早足に玄関を開けた。
「うぃーっす」
「……えっと」
そこに居たのは想像してた通りの人物だった。
ただ一つ、昨日と違う所を挙げるとするなら、黒いカツラで隠していた長い金髪をさらけ出し、服は真っ黒なテカテカしたスーツで、香水の匂いやらお酒の匂いやらで全体的に臭い……と言った所だろうか。
「あの、せんせー? ここせんせーの家じゃなくて実希のお家で──」
「あー? 知ってるっつーの」
「え……?」
「俺は一つ忠告に──」
「せっ、せんせー! 兎に角上がって!?」
金髪の酔っ払いなんかが朝早くから家に居る所を見られたら、大家さんに文句を言われそうなのはもちろん、虎太郎の耳に入ったら余計な心配をさせてしまうと考えた実希は、裸足のまま玄関を降りて倉本の後ろへ回り、背中を押して無理矢理家の中へと引き入れた。