はなぼうっ!
「もう、こたちゃんもわがままなんだからー」
虎太郎に部屋から放り出された実希は、ブーブーと文句を言いながら廊下の突き当たりにある扉を開けた。
中は八畳程のリビングになっており、入り口から見て右端のキッチンカウンターの前に置かれている四人掛けのテーブルには、食パンといちごジャム、そして二つのマグカップが用意されていた。
おそらく虎太郎の母が用意していったのだろう。
「ママさん今日もお仕事早かったんだぁ」
実希はそう呟きながらキッチンの奥にある冷蔵庫を開けた。
「今日は……ちょっと豪勢にフレンチトーストつーくろっ」
そしておもむろに卵と牛乳、バニラエッセンス等の材料を用意していく。
実希の両親は色んな所を飛び回っている。
ある時はアメリカで、ある時は中国で……そもそも国内にいることが少ないのだ。
だから朝ご飯は虎太郎の分も作って一緒に食べるのが日課になっている。
基本的に何も出来ない実希だが、料理だけは得意といっても良いだろう。
「こたちゃんまだかなー……」
下準備を終えてフライパンで焼きに入った頃、
「待たせてワリ、今岸谷先輩から電話あってさ」
慌てた様子でようやく虎太郎が入ってきた。
「だいじょぶだよー。 もうすぐ出来るから待ってて」
「じゃあ俺は紅茶でも入れとくわ」
「あ! 実希ねー」
「砂糖三つにミルクいっぱいだろ? 分かってるっつの」
実希が料理をして、虎太郎が飲み物を入れる。
そして一緒に食卓を囲む。
端から見れば恋人と取られるのかも知れないが、二人は至って普通の幼なじみのつもりなのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
少なくとも実希は虎太郎を異性などと捉えたことは一度たりとも無かった。