はなぼうっ!
 テーブルに並ぶのは、蜂蜜の甘い香りがするフレンチトーストと虎太郎の母の趣味で買い貯めてあるイギリス産のダージリンである。

 二人には紅茶なんて興味は無く、手軽に出来るティーパック製の方が好きなのだが、虎太郎がそれを自腹で買っても母が捨ててしまうのだから仕方ない。



「あー……紅茶に三分待つとか……カップラーメン様と同等かよ」

「でもこの紅茶カップラーメンより高いんだよ?」

「おー、こんなんに三千もかける母さんの気が知れねーよ」

「量少ないしねー」


 声を上げて笑いながら実希はサラサラと砂がこぼれ落ちていく砂時計を見つめた。

 白い星形の砂──本物の星の砂で作ったとアンティークショップの店頭に並んでいたこの砂時計は、去年の母の日に実希が虎太郎の母にプレゼントした物で、それ以来愛用してくれているらしい。

 贈った物を頻繁に使ってくれているというのは嬉しいもので、貯金箱を割ってまで買った事は今でも後悔はしていない。

 

「こたちゃん」

「ん?」



 砂時計を見ている内に、不意に寂しくなった……気がした。


「今日から高校生だね」

「おう。 ってさっきから言ってんだろーが」



 昔から憧れていた『高校生』にようやく手が届いたのに、素直に喜べないのは……おそらく……、


「やっぱりこたちゃんにも彼女とか出来んのかなぁ」


 今までと環境が変わることが不安だからだろう。

 虎太郎の優しさは実希が一番良く知っている。
 それに、顔だって正直格好いいのだ。

 唯一の欠点である身長だってすぐ伸びるのも確信している。
 だって、虎太郎の両親はどちらも身長は170センチ越えているのだから。



「……こたちゃん?」





 



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