はなぼうっ!



「っざけんなぁぁぁ!」



 爆走。

 暴走。

 この言葉がこんなにもしっくり来たことは、今まであっただろうか……。

 いや、実希のお陰で暴走はしたことあったが、爆走は虎太郎にとって初めての経験だった。



「いっけー! こたちゃんダッシュダッシュ!!」

「落ちるなよ! しっかり腰掴まってろな!」

「うんっ!」



 舞い落ちてくる桜が顔に貼り付いてくるが、とにかく今はそんな事を気にしている暇は無かった。

 腰に実希の手がしっかりと回されていることを感じながら、力の限りペダルを思いっきり漕ぐ。

 初めての通学は歩きで、ゆっくりと桜を見ながら……なんて約束を一昨日二人でしたのだが、時刻が九時を過ぎたとなってはそんな悠長な事は言ってられない。

 何しろ入学式はもう始まっているのだ。




「実希! 今何時だ!?」


 切れかかった息で虎太郎は後ろの実希に声を掛けた。

 そこの角を曲がればもう学校は直ぐだ。


「えーと、九時二十二分かな」

「うし! サンキュ」


 学校から普通に自転車で来ればかかる時間は十分。

 家を慌てて出たのは十五分くらいだった筈だから、二人乗りでこの時間ならばがんばった方だろう。

 その証拠に、二十度ほどの比較的涼しい筈なのに虎太郎は汗だくだ。




「よし! 自転車はとりあえず放って置いて体育館行くぞ実希!」

「う、うん!」


 校舎に入るなり自転車は乗り捨て、実希の右手を取った虎太郎は走って拍手の聞こえる方──体育館へ向かった。



< 6 / 14 >

この作品をシェア

pagetop