はなぼうっ!
無事……といえば無事入学式には参加出来た。
もちろんクラスも分からない上完璧な遅刻だったから、扉の入り口で立ち見という悲惨な状況ではあったのだが……。
だが実希はそんな状況にも関わらず、
「なんか特別って感じだねー」
などと喜んでいたから、虎太郎も特に文句は無かった。
それに実希とは違い、厳粛な式に遅刻した自分が悪いという気持ちが虎太郎には少なくともあった。
──とにかく、そう経験できない形で入学式に参加出来たのだ。
普通に参加する機会ももう無いとは思うが、そんな深く考えても時間は戻らないのだからこれで良しとしよう。
「あ、せんせー」
立ち見の入学式が終わり、生徒が整列している中で実希が唐突に近くにいた教師に声を掛けた。
清潔感のある黒い短髪にとても不似合いではあるが、白衣を着ているあたり保険医か……眼鏡も掛けてるし、何より『保険医 倉本聖』と書かれた名札を首にぶら下げている。
「んあ?」
倉本は実希の呼び掛けに眠そうに返事をすると、その直後に欠伸をかいた。
「実希達急いできたから、自分のクラス分かんないんですけど」
「……あぁ、遅刻してきた奴らか」
面倒そうにそう呟くと、倉本はチラッと辺りを確認して、ようやく見つけた人物の姿を指差した。
「あいつ……あのゴリラみたいな奴が一年の先生のリーダーだからあいつに聞けよ」
「はいっ! ありがとーございま……あ!」
倉本の態度の悪さに気付きもしない実希が、唐突に声を上げた。
「せんせ、カツラの端から金髪出てますよ!」
「──っ!? マジか!?」
「あ、ちょっとだけだけど……」
そんな実希の返事も聞かずに、倉本は体育館を出て行く生徒達を押し退けて早足で行ってしまった。