はなぼうっ!
「実希ー!」
「あ、こたちゃん」
「悪い、外にクラス表見に行ってきた」
「わぁ、ありがとー。 そっか、せんせーに聞く前に見に行けば良かったんだね」
「誰かに聞いたのか?」
「ううん、まだ知らない。 実希何組? あ、こたちゃんと一緒?」
この質問に、虎太郎は嬉しそうに口角を上げて答えた。
「一年三組! これで十年連続突破だな!」
「やったぁ!」
厳密に言えば生まれた頃から離れたことが無いのだが、小学校からの運で別れるクラス替えだけで言えば十年一緒ということになるのだ。
いくら幼なじみだからといって、ここまで離れないのはもう運命としか言いようがない……と、中学の時に同級生に言われたことはあったが確かにその通りかも知れない。
恋人には発展しない辺り赤い糸なんかでは無いだろうが、二人はオレンジの糸か何かで結ばれてるのかも知れない。
小指と小指ではなく、手首と手首に……切ろうと思ってもなかなか断ち切れない極太の、糸というよりは紐で。
虎太郎は少なくともそう思っていたかった。
一生恋仲にはなれないなら、せめて一生幼なじみでいたいのだ。
もちろんそんな事は有り得ないことくらい虎太郎も分かっている。
実希はああ見えて男子に評判が良いのだ。
屈託のない笑顔と、裏表のない態度……絶滅寸前の黒髪ロングも理由の一つではあるだろうが、とにかくモテていた。
実希に自覚が無いのは、虎太郎が実希のそばに男子を寄せなかったからだ。
「なぁ実希」
「なーに?」
一年三組の教室へ向かう廊下を歩きながら、虎太郎は小さく口を開いた。
「彼氏とか……作んねーよな?」
「分かんない」
「……は」
「好きな人が出来たらがんばるよー」
「好きな人……」
「うん!」
まぁ、実希の答えは正しいだろう。
幼く見えたってもう女子高生なのだ。
色恋の一つあったって、好みのタイプがあったっておかしくはない。
だが、
「そーか……」
虎太郎の心中が穏やかでないことは言うまでもないだろう。