メリアと怪盗伯爵
1章
1話 舞い降りたナイト
「はあ…」
メリアは大きな溜息を零した。この日、彼女は早朝から深夜遅くまで働き通しだった。
雇われ先のお屋敷では、朝から親戚がやって来ると、侍女を総動員させて掃除やら、迎える準備やらでてんやわんやし、客人が着いたら着いたで、やれ料理を出せ、やれ酒を出せ、やれ屋敷を案内しろ…。結局ののところ、客人が主人との晩酌で酔い潰れるつい先程まで、メリアも他の侍女達も休む暇も無かった訳だ。
「メリア、先上がるね」
ぐったりとした様子で、メリアを除く最後の侍女がメリアに手を振る。
それになんとか手を振り返したその後、メリアは屋敷の玄関先でとうとう屈み込んだ。
「…ああ、疲れた…」
早く家へ帰って休まなければならないというのに、一日中駆けずり回っていた足は、一旦座り込んでしまうとなかなか立ち上がることができない。
膝に顔を埋めているうち、眠気が最高潮に達し、メリアはいつの間にか寝入ってしまっていた。
空には満月がかかり、今夜は月明かりがやけに眩しい。
そんな光を埋めた後頭部に受け、メリアは夢を見ていた。
美しい古城の窓から、じっと地上のメリアを見つめる美しい青年。メリアは一面の花畑に一人立ちすくみ、その青年の目を見つめ返す。そこからでは、青年の目の色までは見ることはできないが、何故か彼が寂しそうな表情を浮かべていることだけは、はっきりと分かった。
メリアは手を伸ばす。けれど古城の中の彼は遠く、決して届く筈も無く…。
『ガサッ』
ふと何かが近くで音を立てた。
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