メリアと怪盗伯爵

 だが、それがまさかあんなことになるなんて、メリア自信予想だにしていなかった・・・。



 時計の針はこのとき既に深夜一時を回り、メリアはいつ男爵が戻るかという落ち着かなさで、なかなか寝付けないでいた。
 メリアはそっと客室を抜け出した。
 手洗い場へ向かおうとしたのだ・・・。

 真っ暗な屋敷に、ところどころランタンが揺らめき、屋敷はしんと静まり返っている。
 テレサは余程疲れてしまったのか、一室の長机に突っ伏して眠っている。
 他の侍女の姿は見当たらない。
 みんな、今夜は帰ってしまったようだ。

(テレサには悪いことをしてしまったわ・・・)
 申し訳なさそうに、メリアはそっと彼女の肩からずり下がるブランケットをかけ直してやった。

 時計を見やり、メリアは懐かしい屋敷をぐるりと見回した。
 何もかもが愛着のあるアダム・クラーク男爵の屋敷・・・。
 

『カタン』


 自分とテレサ以外誰もいない筈の屋敷の廊下に、奇妙な音が響いた。

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