メリアと怪盗伯爵
明かりの一切無いこの部屋は、もともとは書庫として使用されていた場所だ。
埃と古い紙の匂いがふんわりと漂い、ところどころに蜘蛛の巣も張っている始末だ。
アダム・クラーク男爵は、随分前からこの部屋を使っていない。
メリアは軋む床を息を潜めながら進み、部屋の中央で立ち止まった。
部屋には、ハタハタとはためくカーテン。
長く開けられていない筈の窓が僅かに開き、月明かりが部屋に差し込んでいた。
(窓が開いてる・・・)
ふと足元を見下ろすと、床に設置されている地下の階段扉が何者に開けられたような形跡を見つけた。
「え・・・?」
埃が取り払われていることから、つい最近、この扉が開かれたばかりだということがすぐにメリアに分かったのだ。
急に恐ろしくなり、テレサを呼びに行こうかと迷う彼女だったが、疲れ切ったテレサの背中を思い出し、メリアはなんとかこの場を自力解決しようと決心するのだった。
(大丈夫よ、メリア。ここは、長い間働いていた屋敷じゃない! きっとなんとかなるわ・・・!)
ぎゅと拳を握り締め、意を決して地下へ続く扉を開けた。