メリアと怪盗伯爵
「そ、そうなの・・・?」
メリアがなるべくテレサに視線をやらないように、素っ気無く答えると、
「ええ、ええ、そうなのよ! それもいつもとても素敵な一遍の詩を残していくそうよ・・・。昨晩、帰宅時間をもう少し遅らせていたら、傷を負った闇の騎士様に、もしかしたら鉢合わせできたかもしれないのに・・・」
完全に憧れの人を想う口振りのテレサに、メリアはドギマギしながらなんとか侍女服の着替えを終えることができた。
「ああ・・・、闇の騎士様。きっと紳士で優しくて、素敵な方に違いないわ・・・」
テレサが世間を騒がせる大怪盗”闇の騎士(ダーク・ナイト)”に熱を上げているのはメリアも以前から知っていたが、まさか昨晩その闇の騎士本人に会ったなどと口が裂けても言えない。
いや、バレたらきっと大変なことになる。重罪者を匿った罪で、メリア自身も懲罰の対象になり兼ねない。
「それはそうと、昨日の客人が今朝ここを発つそうよ。機嫌を損ねたら大変だわ。早く準備に行きましょ」
テレサのスイッチが一気に切り替わり、メリアの手をぐいと掴んで歩き始めた。
さて、また長い一日の始まりだ。