メリアと怪盗伯爵
「奴の尻尾を掴めなかったという失態もあるが、問題はそれだけじゃ無い。奴は確実に俺達を疑い始めている。奴がパトリック宛てにわざわざ礼の手紙を置いて行ったのも、おそらくは俺達への忠告を含めてのことだろう・・・」
あのパトリック宛ての手紙は、
”余計な詮索はするな。いらぬことに首を突っ込めば、アダム・クラークの二の舞になるぞ”
という、隠されたデイ・ルイス侯爵からのメッセージなのだ。
メリアは昨晩の出来事を思い出していた。
夜遅く、アダム・クラーク男爵が屋敷に帰宅し、メリアはすぐに彼への面会をお願いし、無事パトリックから預かっていた手紙を手渡したのだ。
契約を打ち切って追い出した筈の侍女が、今度はモールディング伯爵家の遣いとして、手紙を持ち寄ったことを知ったアダム・クラーク男爵はひどく驚き焦ってはいたが、すぐに手紙に目を通し、メリアを大切な客人として扱ってくれていた。
彼が手紙に目を通す間中、傍で待っていたメリアだったが、そのときの彼の様子がおかしいのはすぐに分かった。
脂汗を噴き、呼吸もひどく乱れていたし、しきりに噴き出た汗を布で拭っていた・・・。
今考えると、手紙に書かれたデイ・ルイスからの告発の内容に慌てふためき、そして、同罪だと思っていたデイ・ルイスの手酷い裏切りにひどく焦っていたに違い無い。