メリアと怪盗伯爵
「アダム・クラーク男爵のことは、私もすごく残念です・・・。でも、これはアダム・クラーク男爵の問題であって、パトリック様には何の責任もありません。パトリック様は何も悪くないんです。だから、元気を出して下さい・・・」

 そもそもどんな理由があろうとも、デイ・ルイス侯爵の口車に乗ったのはアダム・クラーク男爵自身なのだ。なのに、どうしてこの心優しい青年が気に病む必要があるのだろうか。

「・・・そうだね。こうなってしまったのは僕のせいでは無い。けれど、もう少し僕に力があれば、こうなる前に事前に防ぐことができたかもしれない」
 
 テーブルの前に腰掛け、がっくりと項垂れてしまったパトリックは、頭を両手で抱え込んでしまった。
 メリアは堪らず、彼の悔しそうな背にそっと手を置く。

 ピクンと僅かに動いたパトリックの肩。
 彼は静かに背に置かれたメリアの小さな手に自らの手を重ねた。

 パトリックの温かくて優しい手。
 メリアは、テレサのことで不安な心が、少しだけ和らぐ気がした。




 けれど、メリアの心配は決して無くなることはない。
「待って…! あなたは一体何を盗んだの…??」
 
 あの夜、メリアが地下の物置き部屋で闇の騎士(ダーク・ナイト)にそう問うと、

「すぐに分かる。君はもうこの屋敷には関わらない方が懸命だろう…」

 と、彼は答えたのだ。
 今考えれば、闇の騎士(ダーク・ナイト)は、アダム・クラーク男爵がこうなることを知っていたのかもしれない。
 だとすれば、彼は一体誰なのか・・・? 
謎は深まるばかりだ。
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