メリアと怪盗伯爵
「大変だ!! おい!! 誰かおらんか!!」
屋敷の主、アダム・クラーク男爵が私室でけたたましく呼び鈴を鳴らしている。
「旦那様、どうかなさいましたか??」
慌ててテレサとメリアがクラーク男爵の部屋へ駆けつけた。
「本日の午後の予定は全てキャンセルだ! 今すぐにその手続きを」
真っ青になって、クラーク男爵はいつもりよりもいくらか顔がげっそりして見える。自慢の口髭は少し元気を失っているようだ。
「畏まりました。すぐに・・・」
二人が下がろうとしたのを、クラーク男爵が慌てて呼び戻す。
「すぐに料理人を叩き起こせ! 今日の昼頃、ランバート伯爵とモールデイング伯爵が会食に来られると連絡を受けた・・・!」
彼の手には開封してすぐに握り締められたであろう、手紙が皺々になって掴まれている。
「か、畏まりました・・・! すぐに準備を・・・!!」
退室した二人はぱっと互いに顔を見合わせた。
「嘘でしょっ!? まだ昨日の客人もいらっしゃるというのに!!」
それも、格上の爵位を持つ二人が、急に訪ねて来るなど只事ではない。
二人はパタパタと屋敷の廊下を駆け出した。