メリアと怪盗伯爵
エドマンドの方からパトリックに対して条件を差し出すなど、今まで嘗て無いことだった。
パトリックは不思議そうにエドマンドの目を見返す。
「今ここでした話は、無かったことにすること」
「・・・エド、それは一体・・・」
彼の意図が読めず、パトリックは思わず口を挟んだ。
「今から、彼女はメイグランドの片舎から訪れた俺の遠縁の親類だ。即ち、お前の専属の侍女などは最初から存在しない。いいな?」
パトリックは驚いたように瞬きを数回繰り返した。
「彼女の姓はジョーンズ。この国でもっとも多く無難な名だ。実家を訊ねられた際には言葉を濁せ。深く話せばすぐにボロが出る」
呆気にとられたように、パトリックは短時間であっという間にメリアの偽出生を捻り出してしまうエドマンドを見つめた。
「即ち、誰にも彼女の正体を見破られないことが条件だ」
「あ、ああ。それで構わない」
パトリックがそう言った途端に、エドマンドは何事も無かったかのようにソファーから腰を上げ、呼び鈴を鳴らす。