メリアと怪盗伯爵
『トントン』
すぐさまノックの音がして、「入れ」とエドマンドが返事をした。
「お呼びでしょうか、エドマンド様」
入室してきたのは、歳の頃合六十手前と言ったところだろうか・・・。真っ白い口髭に、すっと背筋の通った老執事だった。
「ジョセフ。明日、遠縁の令嬢が訪れることになった。しばらくはこちらで滞在することになるだろうから、すぐに客室の手配を」
エドマンドは信頼の置ける執事ジョセフにさえも事実を明かさない徹底振りだ。
「左様でございますか・・・。ご令嬢はいつ頃ご到着に? お迎えの馬車を出しましょうか?」
ジョセフはまるで怪しむ様子も無い。
「いや。パトリックが昼頃屋敷へ送り届けてくれるそうだ。彼女は長い田舎暮らしで、しばらくはこちらの暮らしにも随分苦労するだろう。その際は大目に見てやってくれ」
それだけ言うと、エドマンドはさっさとデスクの前に腰掛けてしまう。
「畏まりました。では、すぐにその準備を」
美麗にお辞儀をすると、ジョセフは部屋を退室して行ってしまった。
しんと静まり返った部屋に、『ペラ、ペラ・・・・』とエドマンドが書類を捲る音だけが響く。