メリアと怪盗伯爵
昨日の客人に失礼の無いように、成る丈丁寧な対応を装い、半ば追い出すような形で見送った後、屋敷の中は昼に訪れる新たな客人に備えて誰もが忙しなく走り回っていた。
「ふう・・・、なんとか間にあったみたい・・・」
メリアの言葉に、テレサも「うん」と頷く。
既に侍女達はヘトヘト。半日でもう二日分は働いているだろう。
「旦那様!! もういらっしゃったみたいです!!」
窓の外に馬車が見え、そこからちょうど二人の紳士が降り立つところだ。
「何っ! もう着いたのか!!??」
クラーク男爵は慌てて屋敷の階段を駆け下りる。
「だ、旦那様! 足元にお気をつけ下さいね!」
痩せ身のクラーク男爵は足元が危なっかしいったらありゃしない。
なんとか二人の伯爵の出迎えに間に合ったクラーク男爵は、にこにこと作り笑いを浮かべて馬車の前に立った。
「ようこそ、クラーク家の屋敷へ。ランバート伯爵、モールディング伯爵」
開いた馬車の扉から最初に優雅に降り立った男は、モールディング伯爵。
「やあ、アダム。しばらくだね」
彼が舞い降りると同時に、芳しい薔薇の香りが辺りに漂う。