メリアと怪盗伯爵
16話 偽令嬢の救出作戦
「はあ・・・・・・」
これでパトリックの溜息は、メリアをエドマンドの屋敷に送り届けた日から数えるとすでに千回を越えた。
「溜息ばかりつくな。お前が望んだことだろう」
エドマンドは窓に肘をついてぼんやりと窓の外を見つめるパトリックを咎めた。
「・・・そうさ、なんとでも言ってくれ。全部僕が言い出したことだ、後悔はこれっぽっちも無いさ」
ブンと拳を振り上げ、パトリックは勇んでエドマンドを振り返る。
「が・・・。辛い。彼女が僕の傍にいないことがこんなにも辛く淋しいだなんて考えもしていなかった・・・」
がっくりと肩を落とし、パトリックが呟く。
エドマンドは、シャツの袖口のボタンを留め終えると、呆れた声でぼやいた。
「よく言うよ。毎日毎日飽きもせず人の屋敷におしかけてきておきながら」
そんな声に気付いて気が付かずか、パトリックは窓の下を指差した。
「それにしてもエド。メリアは庭で何をやっているんだい?」
この窓からではよく彼女の様子は見えないが、唾の大きめの帽子を被り、屈み込んで何やらやっている様子。
「さあな。俺も日中は忙しくあまり彼女に構っていない」
エドマンドは、今日も忙しなくどこやらに出掛ける準備をしている。
レディーをほったらかしにするなど、パトリックにとってはもっての他な行為だが、生憎無理を言って彼女を預けてた身だ。エドマンドを責めることはできない・・・。
「ふうん…。彼女に構う暇が無い程、君は一人で一体何を嗅ぎ回っているんだろうね?」
パトリックの厭味の込められた問いに、エドマンドは僅かに左眉を吊り上げた。
「ちょっと街で気になる噂を耳してな」
彼がパトリックにも相談無しで単独の行動をとることはそう珍しいことでは無い。パトリックはそう気にした様子も無く、再び窓のし下へと視線を戻した。