メリアと怪盗伯爵

 メリアの額には僅かに汗が滲んでいる。
 土のついた手で擦ったのであろう、頬はところどころ茶色く薄汚れていた。

「ダニエルが?」
 そんなメリアを微笑ましく思いながらも、彼女の口から出てきた以外な人物の名前に、パトリックは少し興味をそそられる。

「パトリック様の屋敷でダニエルが薔薇園を育てていますでしょ? あそこに、このピエール・ド・ロンサールだけが無いそうで」
「そうだったの」 
 そう言うメリアの顔がすっかり綻んでいるいるのを見て、パトリックは彼女が相当子ども好きなんだと悟った。

「ダニエルったら、何が欲しいかって訊ねたら、”ピエール・ド・ロンサールの苗が欲しい”って言うんですよ? リリー・サリーはおやつの話をしていたのに」
 可笑しそうに吹き出し、メリアは無意識に土の付いた手でまた額の汗を拭おうとした。

「あ、ちょっと待って」
 パトリックが、自らの手が汚れるのも構わず彼女の手に触れる。
 きょとんと見返すメリアの額を、すぐさまポケットから取り出したハンカチーフで拭ってやった。
「気をつけて。土がついてしまうよ」
 すでに汚れてしまった部分を、丁寧にハンカチーフで拭い取ってやりながら、パトリックは優しく微笑んだ。

「すっ、すみません・・・! 大切なハンカチーフが」
 メリアは慌てて後方に退こうとした。
 
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