メリアと怪盗伯爵
そんなことをしている間にも、いつの間にか屋敷にエドマンドの姿が無いことにメリアは気付く。
このところ、彼は毎日のようにどこへやら出掛けて行っているようだ。
まさに、メリアにとってはチャンス到来だ。
メリアは、一旦宛がわれている客室へ戻り、服の着替えをする。
メリアがもっとも着慣れている侍女服は、既にエドマンドの手によって没収されてしまい、どこに隠されているのかが分からない。その為、彼女は着馴れない洋服ばかりを身に付けなければならない訳だ。
(ほんとは、侍女服が一番動き安くて好きなんだけれど・・・)
中でもあまり堅苦しくない、フォレストグリーンのナースドレスがメリアの唯一のお気に入りだ。
メリアは、鏡の前に立つと、髪の色とお揃いの赤っぽいハットをしっかりと被る。
(ごめんなさい、パトリック様・・・! ランバート伯爵・・・!)
そう心の中で謝罪の言葉を唱えると、意を決したようにメリアは思い切って部屋を出た。
向かう先は、エドマンド・ランバート伯爵の屋敷の外。
そして、友人テレサの待つアダム・クラーク男爵の屋敷である。
執事のジョセフが忙しそうに動き回っているのを確認すると、その目をすり抜けるかのように、メリアは早足で廊下を突っ切った。
パトリックの屋敷とは違い、エドマンドの屋敷では十分な数の侍女達が働き、誰も無駄口叩かずに黙々と自らの仕事をこなしている。
そんな彼女たちの目もすり抜け、何食わぬ顔でメリアは屋敷を無事抜け出すことに成功したのだった。
「メリアお嬢様??」
彼女の様子を伺いに客室を訪れたジェームズだったが、ノックの後に返事がないので、小首を傾げた。
「ご気分でも悪いのですか? 入りますよ」
ドアに耳を傾けて声をかけるが、中からは何の物音さえしない。
ジェームズは恐る恐るメリアの部屋のドアを開ける。
・・・が。中は誰もいない。蛻の空だ。
「・・・・・・」
このときはまだ、ランバート伯爵家の屋敷の誰一人として、メリアが屋敷の敷地内にいないことに気付いていないのだった。