メリアと怪盗伯爵

 
 そして、街馬車を捕まえやって来た先は、アダム・クラーク男爵家の屋敷。
 ここは現在イザベラ女王の取り調べを受けている場であり、関係者以外の立ち入りは禁止されている場所でもある。

(早くテレサを見つけなきゃ!)

 赤い帽子を深々と被り、メリアは屋敷の大きな門の少し手前で立ち止まった。
 門前には、宮殿から派遣されたであろう兵が見張りにつき、とても正面からは入れてくれそうには無い。

(困ったな・・・)
 少し考えてから、メリアはとてもいい考えを思いついた。

「そうだっ!」

 屋敷の側面に向けて早足に歩き始めたメリアは、周囲をぐるっと見回して、誰もいないことを確認した後、石垣の前でおもむろに屈み込んだ。
 蔓の這った石壁の一角を手で掻き分けると、人が通れる程の穴が空いているのがわかる。
 これは、メリアがここで働いていたときから知っていた秘密の通路で、近道でもあった。以前はよくこの通路を密かに利用していたものだった。

 
 穴から這い出たメリアはせっかくの綺麗なドレスをはたくと、「ふう」と一息ついて屋敷を見上げた。
 ちなみに言うと、建物の中に入るには実はもう一つ秘密の通路があった。
 ”更衣部屋”へ続く道だ。

 侍女の着替えように宛がわれている通称”更衣部屋”のクローゼットの後ろには、実は今は使われていない古びた扉があって、それが外のゴミ置き場のドアと繋がっているのだ。
 テレサが屋敷の中にいることを信じ、メリアはゴミ捨て場へ向かう。
 予想通り、見張りの姿は一人も無い。

(よかった・・・)

 見つかれば、メリアも尋問の対象となるだろうことはわかっていたし、そうなれば、パトリックにもエドマンドにも多大な迷惑がかかってしまうことは明らかだった。
 でも、同じ時間を過ごしてきたテレサを、このまま放っておくことなど、メリアにはとてもできなかったのだ。


 
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