メリアと怪盗伯爵
「ん、しょっと」
錆び付いた扉は、開けるのになかなか骨がいる。
そして、なんとか開いたにせよ、目の前にはクローゼッドの背が邪魔をして、扉は女性が横向きに滑り込むような形で入る程度にしか開かない。
それには、帽子の鍔が邪魔になる為、メリアは帽子をゴミ置き場で脱いでしまった。
帰りにここに置き忘れないようしなければ、とメリアは密かに思う。
そして、扉に引っかかって服が破けはしないかと、最善の注意を払いながらメリアは細い隙間にまずは右足、右手。次はお尻・・・というように、順に身体を滑り込ませてゆく。
なんどか已むを得ない事情でここを通ったことがあったが、いつ通っても妙な緊張感が湧いてくる。いつか、扉に挟まったまま出られなくなって、そのまま誰にも気付かれずにミイラになるんじゃないかと、恐ろしい考えに襲われる訳だ。
メリアがなんとか身体を開いた扉に詰め込んだ後、次の難関はクローゼットだ。
ここのクローゼットには、実は少し細工がしてある。
勿論、メリアがしたものではない。メリアの母の時代の侍女の誰かが、この秘密の通路をなんとか使用できないものかと考えた末に、こっそり決行したものらしい。
「テレサ・・・??」
メリアは、クローゼットの背をそっと取り外し、スライドさせた。
横開きの扉のように開いたクローゼットの背から、今度は器用に潜り込んだ。
「メリア!?」
テレサが、クローゼットから突如現れた友人の姿に驚き、慌ててメリアの元に駆け寄ってきた。
「どうしてメリアがここに!?」
「しっ!」
人差し指を立て、メリアがテレサに制した。
「ど、どうしたの?? その服・・・?? まるでどこかのご令嬢みたいよ・・・??」
軽いパニックに陥っているテレサに、「ちょっと色々あってね・・・」と曖昧に答えておいた。